・糖転移酵素EOGT注1)は、タンパク質に糖(O-GlcNAc)注2)を付加する酵素で、その変異が先天性疾患のアダムス・オリバー症候群注3)で報告されている。本研究では、EOGTの立体構造を原子レベルで明らかにし、これら遺伝子変異によるEOGTの機能低下の原因を解明した。
・EOGTと糖供与体UDP注4)の複合体の結晶構造に基づいて、UDPと相互作用するアミノ酸の中で、三つのアミノ酸(Asn-Arg-Arg)の空間配置がUDP認識と酵素活性に重要であることを示した。
・この空間配置(N-R-R constellation)は、EOGTが属するGT61ファミリー注5)で共通し、動植物の酵素に広く進化的に古くから保存されており、UDPとの相互作用に重要な基盤構造であることを明らかにした。
名古屋大学大学院医学系研究科・糖鎖生命コア研究所(iGCORE)の岡島 徹也 教授、田嶌 優子 講師らの研究グループは、大阪大学の長江 雅倫 講師(現:東北医科薬科大学)と米国ウィスコンシン大学(マディソン校)のJiaoyang Jiang(ジャオヤン・ジャン)教授との共同研究で、糖転移酵素EOGTの結晶構造を明らかにし、新規基質認識モチーフを新たに発見しました。
細胞内では、多くのタンパク質が「糖」と呼ばれる分子を付け加えられることで、正しく働くようになります。そのような働きを担う酵素の一つに、EGF domain-specific O-GlcNAc transferase (EOGT)があり、EOGTは特定のタンパク質領域(EGFドメイン)に糖(O-GlcNAc)を付加します。EOGTの変異は、手足や皮膚の発達に影響する先天性疾患のアダムス・オリバー症候群で見つかりますが、その作用機序はよく分かっていませんでした。
本研究では、EOGTが糖を運ぶ分子であるUDPと結合した状態の立体構造を明らかにしました。そして、アダムス・オリバー症候群で報告された三つのEOGT変異は、一つはUDPとの結合に重要なアミノ酸の変異であること、もう二つはEOGTの立体構造の構築に重要なアミノ酸の変異であることが明らかになりました。さらに、EOGTがUDPを認識する際に「鍵穴」のような役割を果たす、三つのアミノ酸(アスパラギンと二つのアルギニン)から成る特徴的な空間配置(N-R-R constellation)を同定しました。この空間配置(N-R-R constellation)は、EOGTが属するGT61ファミリーで動植物に共通して見つかりました。これは、生物が進化の過程で、UDPを介して糖を糖転移酵素に供与する仕組みを、共通して維持してきたことを示しています。
本研究成果は、アダムス・オリバー症候群の病態理解の手掛かりとなるだけでなく、糖転移酵素群の進化や機能を解き明かす基盤となると期待されます。
本研究成果は、2026年4月15日付米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)がオックスフォード大学出版局から創刊した『PNAS Nexus』に掲載されました。
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注1)EGF domain-specific O-GlcNAc transferase (EOGT):
細胞内の小胞体でタンパク質に糖(O-GlcNAc)を付加する酵素。特に細胞外で働くタンパク質の機能調節に関わる。
注2)O-GlcNAc:
タンパク質に付加される小さな糖の一種。タンパク質の機能やシグナルを調節する重要な修飾。
注3)アダムス・オリバー症候群:
先天的に皮膚や手足の形成に異常が現れる稀な遺伝性疾患。血管や発生過程の異常が関与すると考えられている。
注4)Uridine diphosphate (UDP):
糖を運ぶ分子。
注5)GT61ファミリー:
タンパク質や多糖に糖を付加する酵素群(糖転移酵素)の一つ。アミノ酸配列に基づいて分類される。
雑誌名:PNAS Nexus
論文タイトル:Crystal structure of EOGT reveals a conserved N–R–R constellation for UDP recognition in the GT61 family
著者:Yuko Tashimaa,b,1 , Masamichi Nagaec,d,1,*, Jiaoyang Jiange, Tetsuya Okajimaa,b,*
aDepartment of Molecular Biochemistry, Nagoya University Graduate School of Medicine,Japan.
bInstitute for Glyco-core Research (iGCORE), Nagoya University,Japan.
cDepartment of Molecular Immunology, Research Institute for Microbial Diseases, The University of Osaka,Japan.
dLaboratory of Molecular Immunology, Immunology Frontier Research Center, The University of Osaka,Japan.
ePharmaceutical Sciences Division, School of Pharmacy, University of Wisconsin-Madison,USA.
1These authors contributed equally to this work.
*Corresponding authors.
DOI: 10.1093/pnasnexus/pgag115
URL: https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgag115
大学院医学系研究科/糖鎖生命コア研究所 岡島 徹也 教授, 主著者;田嶌 優子 講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/seika2/