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化学

2026.05.28

光電極における結晶面選択的な反応メカニズムを解明― 合理的な光電極設計指針の確立に期待 ―

【ポイント】

・サブマイクロスケールで局所的な電気化学計測が可能な走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)(*1)により、BiVO4マイクロ粒子内の結晶面選択的な光酸化反応活性の可視化に成功
・光電極系において光酸化反応が{010}面(*2)で優先的に進行することを解明
・光電極における結晶面選択的な反応がキャリア移動度(*3)に支配される可能性を示し、光電極の合理的な設計に向けた新たな指針を提示

 

名古屋工業大学物理工学類の平田海斗助教、名古屋大学大学院工学研究科の本田航大博士後期課程学生、同大学院工学研究科(兼 未来社会創造機構 量子化学イノベーション研究所)・金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の高橋康史教授、東京都立大学大学院都市環境科学研究科の天野史章教授、金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の福間剛士教授らは共同で、サブマイクロスケール(1マイクロメートルよりも小さい微細な領域)で局所的な電気化学計測が可能な走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)を用いて、バナジン酸ビスマス(BiVO4)光アノード電極(*4)における異なる結晶面(結晶表面の向き)ごとの選択的な光電気化学反応を直接可視化し、従来の理解とは異なる反応メカニズムを明らかにしました。
太陽光エネルギーを用いて水を分解し水素を生成する光電気化学的水分解は、クリーンなエネルギー変換技術として有望視されています。この反応効率の向上には、材料表面の結晶面を制御する「ファセットエンジニアリング」が重要な役割を果たします。BiVO4は光電気化学的水分解の代表的な材料です。粉末光触媒での研究から、異なる結晶面間に生じる内蔵電場(Built-in Electric Field: BEF)(*5)を駆動力として電子は{010}面に、正孔(電子の抜けた穴)は{110}面(*2)に移動して、各面で反応が起こるというメカニズムが広く知られていました。しかし、電圧印加下(外部から電圧をかけた状態)で駆動するBiVO4光アノード電極上においては、{010}面と{110}面のそれぞれで高い酸化反応活性を有するという、相反する報告が存在し、光電極上での結晶面選択的な反応については統一的な理解が得られていませんでした。そこで本研究では、独自に開発している局所的な電気化学計測が可能なSECCMを用いて、BiVO4光アノード電極上での結晶面選択的な光電気化学酸化反応を局所的に直接評価しました。SECCMによる酸化反応マッピングにより、BiVO4マイクロ粒子内の結晶面選択的な反応活性の可視化に初めて成功し、水および正孔犠牲剤(*6)の光酸化反応は{110}面ではなく、{010}面で優先的に起こることを実証しました。これらの結果は、電圧を印加して動作する光電極では、光触媒系で広く知られているBEF主導の電荷分離が必ずしも支配的ではなく、結晶内部のキャリア輸送特性が結晶面選択的な反応活性を決定する重要な要因であることを示しています。本成果は、粉末光触媒で得られた知見だけでは、光電極の反応挙動を十分に説明できないことを示すとともに、高効率な光電極開発に向けた合理的な電極設計指針の確立に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年5月27日にアメリカ化学会「ACS Energy Letters」のオンライン版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(*1)走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)
先端開口部を数十~百nmに微細化したガラスナノピペットに電解液と参照極を充填したプローブを用いて、プローブ先端と試料表面に微細な電気化学セルを形成し、局所的な酸化還元反応を計測する手法。

 

(*2){010}面、{110}面
結晶は原子が規則正しく並んだ構造を持つが、「どの向きで表面を切り出すか」によって、現れる表面の性質が変わる。この表面の向きを表すために使われるのが「ミラー指数」と呼ばれる記号で、{010}面や{110}面はその一種。それぞれの面では原子の並び方や密度が異なるため、電子の動きやすさや化学反応の起こりやすさが変わる。

 

(*3)キャリア移動度
半導体の中では、電子や正孔(電子が抜けた穴)が存在し、これらをまとめて「キャリア」と呼ぶ。キャリア移動度とは、これらの粒子が物質中をどれだけ速く、どれだけスムーズに移動できるかを表す指標。移動度が高いと、光励起した電子や正孔が途中で失われる(再結合する)前に表面まで到達しやすくなり、電気として取り出されるほか、化学反応に使われやすくなる。

 

(*4)バナジン酸ビスマス(BiVO4)光アノード電極
BiVO4は、光(特に可視光)を吸収して電子と正孔を生み出すことができる半導体材料で、水を分解する「光電気化学反応」に使われる。その中でも光アノード電極とは、水の酸化反応(酸素を発生させる反応)を担う電極のことで、BiVO4はこの用途に適した材料として広く研究されている。

 

(*5)内蔵電場(Built-in Electric Field: BEF)
外から電圧をかけなくても、材料の内部に自然に生じている電場(電気的な力の分布)。結晶の構造の違いや表面の性質の違いなどによって生じる。この電場があると、電子と正孔が異なる方向へ分離されるため、両者が再結合してしまうのを防ぐ働きがある。その結果、光で生じた電荷を効率よく反応に使うことができる。

 

(*6)正孔犠牲剤
正孔と非常に速く反応して消費される物質。通常、水の酸化反応は比較的ゆっくり進むが、正孔犠牲剤はそれよりも速く反応する。そのため、このような物質を加えることで、正孔がどのように移動しているか、どこで反応しているかを調べやすくなる。代表的な例として、亜硫酸イオン(SO₃²⁻)などが挙げられる。

 

【論文情報】

論文名: Facet-Dependent Photoelectrochemical Oxidation on Particle-based BiVO4 Photoanode Investigated by Scanning Electrochemical Cell Microscopy
著者名: Kota Honda#, Kaito Hirata#*, Fumiaki Amano, Takeshi Fukuma, and Yasufumi Takahashi*
#共同筆頭著者、*責任著者)
掲載雑誌名:ACS Energy Letters
公表日: 2026年5月27日
DOI: 10.1021/acsenergylett.6c01004
URL: https://doi.org/10.1021/acsenergylett.6c01004

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 電子工学専攻 高橋 康史 教授
https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/nanobio/