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総合理工

2026.06.04

細胞1つの元素量を測る新手法、軟X線で実現 ――海洋植物プランクトンに含まれる酸素量をピコグラムの精度で計測――

 【ポイント】

◆海洋植物プランクトン細胞1つに含まれる元素量を定量する計測手法を新開発の軟X線分光顕微鏡を用いて開発しました。
◆これまで測定が難しかった軽元素である酸素について、単一細胞レベルでの絶対質量測定をピコ(1兆分の1)グラムの精度で実現しました。
◆本手法は炭素や窒素など他の元素にも適用可能であり、細胞内元素分布や化学状態を可視化する新たな分析基盤として、生命科学を含む様々な物性研究への貢献が期待されます。

 

東京大学物性研究所のJordan Tyler O’Neal特任研究員(研究当時)と木村隆志准教授、竹尾陽子助教、同大学大学院農学生命科学研究科の児玉武稔准教授、名古屋大学大学院工学研究科の松山智至教授、理化学研究所放射光科学研究センターの志村まり研究員、高輝度光科学研究センターの大橋治彦特任参事らによる研究グループは、軟X線スペクトロ・タイコグラフィ(注1)を用いて、海洋植物プランクトン1細胞に含まれる元素量を定量する新しい計測手法を開発しました。
海洋植物プランクトンは、地球全体の光合成の約半分を担い、酸素の供給や炭素の固定、元素循環に主要な存在です。従って、海洋植物プランクトンに含まれる酸素量を正確に把握することは、地球規模での元素循環を理解するために重要な意義があります。更に生物の中で元素が細胞内のどこに、どれだけ存在するかを知ることは、生命活動や環境応答を理解するうえで重要となります。しかし、数マイクロメートルの単一細胞レベルでの軽元素の定量解析にはこれまで大きな困難が伴っていました。本研究では、個別の元素に特異的に反応する軟X線の波長域を用いることで多数の高分解能・高感度の軟X線細胞像を取得しました。そして細胞の吸収率の変化を解析することで、海洋植物プランクトン1細胞に含まれる酸素の絶対質量をピコグラム(1兆分の1グラム)の精度で直接測定することに成功しました。
 本成果は、微小な生物試料に含まれる元素を培養等することなく直接定量する新たな分析技術として、海洋微生物の生理状態の評価や、細胞内元素循環の理解に役立つとともに、地球環境・海洋循環への応答指標にも貢献が期待されます。また、軽元素の定量測定・化学状態の可視化は有機デバイスや材料の開発・評価など幅広い応用が期待されます。
 本成果は、米国の学術雑誌「Optics Express」に2026年6月3日(現地時間)に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(注1)軟X線スペクトロ・タイコグラフィ:
軟X線を試料に照射して得られる回折パターンから、計算機処理によって高分解能・高感度の試料の画像を再構成する顕微鏡法です。軟X線のエネルギーを元素に固有の吸収が起こる領域の前後で変化させて多数の画像を取得することで、試料内の元素分布や元素量を評価できます。本研究では、この手法を用いて、単一の海洋植物プランクトン細胞に含まれる酸素の分布と量を測定しました。

 

 

【論文情報】

雑誌名:Optics Express
題 名:Quantitative Elemental Masses of a Single Marine Phytoplankton Evaluated with Soft X-ray Spectro-ptychography
著者名:Jordan T. O’Neal, Satoshi Matsuyama, Kai Sakurai, Kyota Yoshinaga, Yu Nakata, Chiho Funaki, Yoko Takeo, Takenori Shimamura, Makina Yabashi, Haruhiko Ohashi, Kazutaka Takahashi, Mari Shimura, Taketoshi Kodama, and Takashi Kimura
DOI: 10.1364/OE.589585
URL: https://doi.org/10.1364/OE.589585

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 松山 智至 教授
https://x-ray.mp.pse.nagoya-u.ac.jp/