・出産後に通常廃棄される胎盤由来の羊膜由来間葉系幹細胞(AMSC)(*1)が、抗GBM腎炎(*2) を改善することをラットモデルで示しました。
・AMSCは好中球(*3)の接着分子CD44(*4)の発現を低下させ、糸球体(*5)への集積を抑制することで腎障害を軽減することを明らかにしました。
・AMSCを用いた細胞治療およびCD44を標的とした新たな治療法開発への応用が期待されます。
抗糸球体基底膜(GBM)腎炎は、自己抗体によって腎臓の糸球体が障害され、急速に腎機能が悪化する難治性の自己免疫疾患です。現在の治療法では十分な効果が得られない患者も多く、新たな治療法の開発が求められています。
名古屋大学医学部附属病院腎臓内科の野嵜智也客員研究者、藤枝久美子助教、古橋和拡講師、大学院医学系研究科腎臓内科学の丸山彰一教授らの研究グループは、出産後に通常廃棄される胎盤の羊膜から採取できる羊膜由来間葉系幹細胞(AMSC)に着目し、その治療効果を抗GBM腎炎モデルラットで検証しました。その結果、AMSCを投与した群では、腎機能障害や組織障害が有意に改善し、その効果は既存の骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)と同等あるいはそれ以上であることが示されました。
さらに研究グループは、AMSCが炎症細胞の一種である好中球の働きを制御することを発見しました。特に、好中球の表面に存在する接着分子であるCD44の発現を低下させることで、好中球が腎臓の糸球体に過剰に集積・滞留するのを防ぎ、炎症や組織障害を軽減していることを明らかにしました。二光子生体内イメージング(*6)を用いた解析では、AMSCと共培養した好中球が糸球体内にとどまる時間が短縮することも確認されました。
また、CD44の働きを阻害する中和抗体を投与した場合にも、AMSC投与と同様の腎保護効果が認められました。これは、CD44を介した好中球の動態制御が腎炎の進行に重要な役割を果たしていることを示す結果です。
本研究により、廃棄される胎盤から得られるAMSCが抗GBM腎炎の新たな治療法となる可能性が明らかになりました。さらに、CD44を標的とした新規分子標的治療の開発にもつながると期待されます。間葉系幹細胞が好中球のCD44発現を直接制御することを示した報告は本研究が初めてであり、腎疾患のみならず、さまざまな炎症性疾患への応用も期待されます。
本研究成果は、学術誌『Stem Cell Research & Therapy』(2026年6月19日付) に掲載されました。
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*1) 羊膜由来間葉系幹細胞(AMSC): 胎盤を構成する羊膜から得られる間葉系幹細胞。出産後に通常廃棄される組織から非侵襲的に採取でき、免疫調整作用や組織修復作用を持つ細胞として注目されている。
*2) 抗GBM腎炎: 腎臓の糸球体基底膜(GBM)に対する自己抗体が原因となり、急速に腎炎が進行する自己免疫性腎疾患。重症例では急速に腎機能が低下し、透析を要することがある。
*3) 好中球: 白血球の一種で、生体防御を担う自然免疫の主役。一方で、炎症局所に過剰に集積・接着すると組織傷害を促進する。
*4) CD44: 細胞表面に存在する接着分子の一つで、細胞の接着、移動、炎症反応などに関与する。
*5) 糸球体: 腎臓で血液をろ過し、尿のもとを作る毛細血管のかたまり。抗GBM腎炎では、この糸球体が強い炎症の場となる。
*6) 二光子生体内イメージング: 生きた個体の臓器を高解像度で観察できる顕微鏡技術。本研究では、麻酔下のラットの腎臓を露出し、蛍光標識した好中球が糸球体に滞留する様子をリアルタイムに可視化した。
雑誌名:Stem Cell Research & Therapy
論文タイトル:Amnion-derived Mesenchymal Stem Cells Attenuate Anti-GBM Glomerulonephritis via Regulation of Neutrophil CD44 Expression
著者:Tomoya Nozaki1*, Kumiko Fujieda1*, Kazuhiro Furuhashi1, 2, 3*, Yuko Shimamura1, Munetoshi Karasawa1, Eri Koshi-Ito1, Yu Watanabe1, Chikao Onogi1, Keita Hattori1, Akihisa Kato1, Jun Matsumoto1, Tomohiro Kawazoe1, Asuka Horinouchi1, Akihito Tanaka1, Hangsoo Kim1, Kayaho Maeda1, Makoto Matsuyama4, Kenichi Yamahara5, Shoichi Maruyama6
1. Department of Nephrology, Nagoya University Hospital, Nagoya, Aichi, Japan
2. Nagoya University Institute for Advanced Research, Nagoya, Aichi, Japan
3. Center for One Medicine Innovative Translational Research, Nagoya University, Nagoya, Aichi, Japan
4. Division of Molecular Genetics, Shigei Medical Research Institute, Minami-ku, Okayama, Japan
5. Institute for Advanced Medical Sciences, Hyogo Medical University, Nishinomiya, Hyogo, Japan
6. Department of Nephrology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan
* Equal contribution
DOI: 10.1186/s13287-026-05113-2
URL: https://doi.org/10.1186/s13287-026-05113-2