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生物学

2026.06.17

海鳥は「将来の繁殖」のために「今の繁殖」をあきらめるのか?繁殖・生存・渡りの間でエネルギーを柔軟に配分する仕組みを実証

【ポイント】

・世界でも数少ない大規模野外操作実験により、生活史戦略の因果関係を検証。
・251羽の野生海鳥を対象に、繁殖期の操作から、渡り行動・翌年の繁殖成功・生存率まで追跡。
・高いエネルギー負荷を受けた個体は、その年の繁殖成功を犠牲にする一方、渡りの飛行距離を伸ばし、翌年の繁殖成功を高めた。
・しかし生存率は低下しており、「将来の繁殖」と「生存」のトレードオフを実験的に実証。
・動物が繁殖・生存・渡りの間でエネルギーを柔軟に再配分する「エネルギー柔軟性」という新しい概念を提唱。

 

名古屋大学大学院環境学研究科の中嶋 千夏 博士後期課程と庄子 晶子 教授らの国際共同研究チームは、北太平洋に生息するミツユビカモメを対象とした大規模な野外実験により、繁殖・生存・渡りの関係を決める新たな仕組みを発見しました。一般に動物は「今の子育て」と「将来の生存や繁殖」の間でエネルギー配分のジレンマを抱えています。しかし、その「限られたエネルギーのやりくり」が一年を通じた行動や繁殖成績にどう影響するのかは、よくわかっていませんでした。研究チームはアラスカ・ミドルトン島で繁殖するミツユビカモメ251羽を対象に、餌を与えるグループと飛行コストを増加させるグループを設け、繁殖後の渡り行動まで追跡しました。その結果、飛行コストが増加したことにより繁殖期に高いエネルギー負担を受けた個体は、その年の繁殖成功率が大きく低下した一方で、繁殖地を早く離れ、より広範囲を移動し、翌年には高い繁殖成功率を示すことが明らかになりました。つまり、海鳥は繁殖にかかるコストに応じて「今の子育て」にすべてのエネルギーを使い切るのではなく、将来の繁殖に備えて使い方を柔軟に切り替えている可能性があります。研究チームは、このような能力を「Energetic Flexibility(エネルギー柔軟性)」と呼び、繁殖・生存・渡りの関係を理解する新たな視点として提案しました。
この概念は、なぜ同じ環境下でも個体によって異なる行動や繁殖成績が生じるのかを説明する新しい理論的枠組みとなる可能性があります。さらに、近年の気候変動による海洋環境の悪化に対し、海鳥がどのように適応するかを理解する上でも重要な成果です。本成果は、2026年6月17日午前8時05分(日本時間)付で英国王立協会の国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

 

【論文情報】

雑誌名:Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
論文タイトル:Energetic flexibility as a hidden axis of life-history trade-offs: experimental evidence from a long-lived seabird
著者:Chinatsu Nakajima(名古屋大学), Don-Jean Léandri-Breton, Marie Claire Gatt, Joan Ferrer Obiol, Diego Rubolini, Jacopo G. Cecere, Kyle H. Elliott, Shannon Whelan, Scott A. Hatch, Yasuaki Niizuma, Ken-ichiro Minato, Shigeki Wada, Akiko Shoji(名古屋大学)
DOI:10.1098/rspb.2025.3274

URL:https://doi.org/10.1098/rspb.2025.3274

 

 

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 庄子 晶子 教授,主著者:中嶋 千夏(博士後期課程学生)
https://www.eps.nagoya-u.ac.jp/ecology.html