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医歯薬学

2026.07.06

患者に寄り添う看護を支える「良心的立ち止まり」~日本の看護実践から生まれた新たな看護倫理の視点を世界へ~

【ポイント】

・世界初、日本人看護師の「良心的立ち止まり注1)」を概念化 :
多忙なケアの現場で、あえて一瞬判断を遅らせる「立ち止まり」が、言葉にならない患者の尊厳や脆さ(脆弱性)を察知するための、極めて重要な倫理的実践であることをナラティヴ研究から明らかにした。
・看護倫理のパラダイムシフト:「正しい判断」から「日々の応答」へ :
倫理を単なる「白黒つける意思決定」としてではなく、患者や家族の揺れ動く痛切さに日々寄り添い、応答し続ける「生きたプロセス」として捉え直した。
・「和(Harmony)注2)」の再定義:固定観念から「動的な倫理実践」へ :
日本の医療現場で重んじられる「和」を、単なる同調や現状維持ではなく、患者・家族・多職種との対話の中で絶えず交渉され、柔軟に再構成されていく動的な関係性として示した。
・効率化が進む医療現場へ、人が人をケアする「立ち止まる力」の重要性を提起 :
標準化・効率化が加速する現代の医療システムにおいて、看護師が直感するジレンマや「立ち止まり」を孤立させず、社会や組織全体で支えていく仕組みの必要性を訴求。

 

現代の医療現場では、AIの活用や業務の効率化・標準化が急速に進み、看護師には常に迅速な判断が求められています。一方で、患者や家族の言葉にならない思いや脆さ(脆弱性)に寄り添うことも看護の核心です。しかし、こうした実践は数値化やマニュアル化が難しく、看護師が日々の葛藤にどう向き合い、行動しているのか、その具体的なプロセスは十分に可視化されていませんでした。
名古屋大学大学院医学系研究科の田中 真木 講師は、日本国内の医療機関で働く多様な実践経験をもつ看護師12名から、約20時間に及ぶ語り(ナラティヴ)を収集・分析しました。ナラティヴ研究とは、人々が経験した出来事やその意味を「語り」として丁寧に分析し、実践の中にある共通した意味や特徴を明らかにする研究手法です。
その結果、看護師は倫理的葛藤に直面した際、判断を急ぐのではなく、自らの良心に照らして一度立ち止まり、患者や家族の脆弱性に応答するために関係性を見つめ直しながらケアを実践していることが明らかになりました。本研究では、この実践を「良心的立ち止まり」という新たな倫理的実践として提唱しました。 本研究は、看護倫理を「正しい選択肢を選ぶための理論」ではなく、「患者の脆さに応答しながら現場で育まれる、実践そのものの倫理」として再定義するものです。効率化が加速する今だからこそ、看護師が良心に基づいて「立ち止まり、考え、対話できる実践環境」を組織や社会全体で守り、支えていくことが、結果として患者にとってより良い医療へつながります。日本発のこの新たなケアの視点は、これからの国際社会における看護倫理のあり方に重要な一石を投じるものです。
本研究成果は、2026年5月26日に国際学術雑誌『Nursing Ethics』にオンライン掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)良心的立ち止まり(Conscientious Pause):
あえて「間(ま)」をとり、最善のケアを模索する行為
看護師が倫理的な葛藤や迷いに直面したとき、判断を急ぐのではなく、一度立ち止まって患者や家族の思いや脆弱性を見つめ直し、自らの良心に照らしてより良いケアを考える実践。
注2)和(Harmony):
対話を通じて関係性を紡ぎ直す、動的な実践
本研究では、単なる同調や対立を避けることではなく、患者・家族・医療者が互いの立場を尊重しながら、対話を通してより良い関係やケアを築いていく実践を意味する。

 

【論文情報】

雑誌名:Nursing Ethics
論文タイトル:Conscientious pause and harmony in nursing practice: A narrative analysis
著者:Maki Tanaka
DOI: https://doi.org/10.1177/09697330261451367

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 田中 真木 講師
https://nursing.met.nagoya-u.ac.jp/