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数物系科学

2026.07.21

カゴメ金属で隠れた相転移を発見――電子の「電荷」と「スピン」が別々に整列――

【ポイント】

・カゴメ格子を持つ金属CsCr3Sb5は、これまで55ケルビン(約マイナス218℃)付近に単一の相転移があると考えられていましたが、より高温な64ケルビン(約マイナス209℃)付近に隠れた相転移が存在することを発見しました。
・この新たな相転移は弾性抵抗測定によって初めて明らかになりました。さらに、光電子顕微鏡を用いた実空間観測と組み合わせることで、電子の「電荷」と「スピン」に由来する異なる秩序が別々に形成されることが示されました。
・これまで一つと思われていた相転移が実は二段階であることを示した本成果は、この物質で報告されている圧力下で出現する超伝導の理解に重要な知見を与えるものです。

 

東京大学大学院新領域創成科学研究科の大西朝登大学院生(研究当時)、影山遥一大学院生(研究当時、現:京都大学助教)、石原滉大助教、藤原弘和特任助教(研究当時、現:同大学物性研究所 特任助教)、谷内敏之特任准教授(研究当時、現:同大学物性研究所 特任准教授)、橋本顕一郎准教授(研究当時、現:京都大学教授)、芝内孝禎教授、同大学物性研究所のCédric Bareille特任研究員、名古屋大学大学院理学研究科の山川洋一講師、紺谷浩教授らは、米ライス大学との共同研究で、カゴメ格子(注1)を持つCsCr3Sb5(セシウム(Cs)、クロム(Cr)、アンチモン(Sb)からなる金属化合物、図1)において、新しい隠れた電子秩序を発見しました。
近年注目されているカゴメ格子物質の一つであるCsCr3Sb5は、55ケルビン(K)付近に単一の相転移(注2)が報告されていたものの、その起源は未解明でした。本研究では、55 Kより高温の64 K付近で、新たな相転移が存在し、電子の「電荷」と「スピン」(注3)が別々に異なる温度で秩序化することを明らかにしました。これは、クロムをバナジウム(V)に置き換えたCsV3Sb5とは異なる性質で、カゴメ格子で起こる電子秩序の多様性を示すものです。
また、CsCr3Sb5では圧力下で電子秩序が抑制されたときに超伝導(注4)が生じることが知られており、本結果はその機構の解明にも重要な知見を与えるものです。
本研究成果は2026年7月17日付けで、英国科学誌 Nature Communications にオンライン掲載されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(注1)カゴメ格子
日本の伝統的な竹細工である「籠目(かごめ)模様」にちなんで名付けられた、三角形と六角形が組み合わさった幾何学的な格子構造。カゴメ格子を持つ物質では、通常の金属とは異なる電気的・磁気的性質が現れる可能性があり、新しい機能性材料として期待されている。

(注2)相転移
温度や圧力などの変化に伴い、物質の構造、電子状態、磁性などの性質が変化する現象。

(注3)スピン
電子などの粒子が持つ、磁石としての性質のもとになる量子的な性質。物質中でスピンの向きがそろったり、規則的に並んだりすることで、磁性が現れる。

(注4)超伝導
金属を冷却すると電気抵抗がゼロになり、電流が流れ続ける現象。物質内部の外部磁場を排除するマイスナー効果も持つ。今回の研究でいう「電子秩序」とは、超伝導とは異なる秩序のことで、これが抑制されると超伝導が現れる。銅酸化物高温超伝導体なども化学置換等によって電子秩序が抑制されると超伝導が現れる。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
題 名:Charge-spin dichotomy in the kagome metal CsCr3Sb5
著者名:A. Onishi*, Y. Kageyama, C. Bareille, S. Ikegami, Z. Xu, K. Ishihara, H. Fujiwara, Z. Wang, B. Gao, W. Yao, P. Dai, Y. Yamakawa, H. Kontani, T. Taniuchi, K. Hashimoto, and T. Shibauchi*
DOI: 10.1038/s41467-026-74096-8
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-74096-8

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 紺谷 浩 教授/ 山川 洋一 講師
https://www.s.phys.nagoya-u.ac.jp/