・紀伊半島に分布する白亜紀付加体中に混じりこんだ蛇紋岩について、その分布・産状の詳細な調査に加えて、岩石学的・地球化学的・構造地質学的分析を実施
・海洋プレートのマントル物質起源である蛇紋岩が海洋プレート内の断層を通じて上昇し、プレート境界を越え、付加体に貫入するという新たなモデルを提案
・蛇紋岩が関与する地震発生やマグマ形成メカニズムの実態解明につながることが期待
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質情報研究部門 志村 侑亮 研究員(研究当時、現:国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学)、羽地 俊樹 主任研究員ら、国立大学法人島根大学 遠藤 俊祐 准教授、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 淺原 良浩 准教授らの研究チームは共同で、紀伊半島中央部に分布する白亜紀付加体中の蛇紋岩について詳細な地質調査と各種分析を行い、その起源が海洋プレートのマントル物質であることを明らかにしました。さらに蛇紋岩が、沈み込む海洋プレート内の断層を通じて上昇し、付加体に貫入するという新たなモデルを提案しました。
蛇紋岩は、地下深部のマントル物質が水と反応してできた岩石です。紀伊半島中央部には、プレート境界浅部で形成された付加体と、その付加体がプレート境界深部の高圧環境下で変成した変成岩が広く分布しており、それらの中には蛇紋岩が取り込まれています。変成岩中に見られる蛇紋岩については、大陸プレートのマントル物質起源と考えられています。一方、大陸プレートのマントルまで到達しない浅い場所で形成された付加体中の蛇紋岩については、その起源は今まで明らかになっていませんでした。
今回、紀伊半島中央部の蛇紋岩の詳細な分布・産状を調査し、岩石学的・地球化学的・構造地質学的分析を実施しました。その結果、蛇紋岩は海洋プレートのマントル物質起源であり、付加体ができた後に蛇紋岩が貫入したことを明らかにしました。これらのことを踏まえ、蛇紋岩がプレート沈み込み前にできた切れ目であるアウターライズ断層を通じて上昇し、プレート境界を越え、付加体に貫入するという新たなモデルを提案しました。蛇紋岩は沈み込み帯における流体循環やプレート境界の力学特性に大きな影響をもたらすと考えられており、今後、沈み込み帯における蛇紋岩の分布や移動プロセスを詳細に明らかにすることで、蛇紋岩が関与する地震発生やマグマ形成メカニズムの実態解明につながることが期待されます。
なお、この研究成果の詳細は、2026年7月24日(米国東部夏時間)に「Tectonics」に掲載されました。
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付加体
沈み込み帯で海洋プレートが沈み込む際に、海洋プレート上に堆積した地層(砂岩・泥岩・チャートなど)や海洋プレートそのものの岩石(玄武岩など)が、プレート境界ではがされ、大陸プレート側に付加して形成される地質体。
蛇紋岩
マントルを構成するかんらん岩などの超苦鉄質岩が、水と反応して形成される岩石。多量の水を取り込み地下深部へ運ぶ性質や、特徴的な物理的・化学的性質をもつことから、沈み込み帯における地震発生やマグマ形成に重要な役割を果たしていると考えられている。
プレート境界
プレート同士が接する境界。沈み込み帯では沈み込む海洋プレートとその上にある大陸プレートとの境界を指し、付加体や高圧型変成岩が形成されるとともに、多くの地震が発生する場所でもある。
アウターライズ断層
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む直前に、海洋プレートの屈曲によって形成される断層。アウターライズ断層に沿って流体が深部まで浸透することで、海洋プレートのマントル物質が蛇紋岩化することが知られている。
沈み込み帯
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む場所。地震や火山活動が活発に生じる。
掲載誌:Tectonics
論文タイトル:Origin, tectonic processes, and metasomatism of serpentinite in the Shimanto Accretionary Complex, SW Japan: Possible diapiric intrusion of serpentinized oceanic lithosphere
著者:Shimura, Y., Endo, S., Asahara, Y., Haji, T., Ushimaru, K., & Yamamoto, K.
DOI:https://doi.org/10.1029/2025TC009237
大学院環境学研究科 志村 侑亮 講師
(地質・地球生物学講座) https://www.eps.nagoya-u.ac.jp/chishitsu.html
(テクトニクス研究室) https://nagoya-teged.studio.site/