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化学

2026.07.29

ナノカーボン合成の新展開:「骨格編集」戦略を実証~次世代デバイスなど機能性材料の創出につながる知見~

【ポイント】

・分子骨格内部の結合開裂と再修復を鍵として新規ナノカーボン分子注1)を創出した。
・ナノカーボン合成における挑戦的課題(十員環の導入と不斉合成注2))を達成した。
・本成果は、従来は医薬品開発を対象としていた「骨格編集」という戦略がナノカーボン合成においても有効であることを実証している。

 

名古屋大学大学院工学研究科の平野 純一朗 博士後期課程学生、井改 知幸 教授、日下 心平 講師、松田 亮太郎 教授、忍久保 洋 教授、福井 識人 准教授らの研究グループは、「骨格編集」という分子骨格内部に着目した化学変換が新規キラルナノカーボン分子注1、2)の創出に有効であることを実証しました
ナノカーボン分子は次世代材料の基盤骨格として有望視されています。これまで精密有機合成の飛躍的な発展により多彩なナノカーボン分子が創出されてきました。これら従来型のナノカーボン合成では、ボトムアップ型合成戦略注3)と呼ばれる分子骨格周辺における化学変換が基盤となっています。一方、ナノカーボンのような巨大分子は骨格内部にも数多くの原子を有するものの、骨格内部は標的分子の合成を計画する上で有効な変換対象とは考えられていませんでした。
本研究では、「骨格編集」という分子骨格内部に着目した合成戦略を基盤に、含十員環ナノカーボンの創出とキラルナノカーボンの不斉合成という二つの成果を達成しました。この戦略によって得られた新規ナノカーボン分子は、高いラセミ化障壁注4)・効率的な円偏光発光注5)・多段階の可逆な酸化還元挙動注6)・多孔性構造体注7)の形成といった、材料として有用な物性を示しました。本成果は、従来は生理活性物質の合成を対象としていた「骨格編集」がナノカーボン合成にも有効であることを実証するものであり、次世代材料の創出に向けた新たな指針になると期待できます。
本研究成果は、2026年7月28日18時(日本時間)付で国際学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ナノカーボン、ナノグラフェン:
フラーレンやグラフェン、カーボンナノチューブの部分構造のように、数多くのsp2混成炭素から構成される有機分子を総称してナノカーボンと呼ぶ。この中でも特に六員環のみから構成される分子をナノグラフェンと呼ぶ。
注2)キラル、不斉合成、光学異性体、エナンチオマー:
右手と左手のように、鏡写しの関係にありつつもそれぞれを重ね合わせることができない性質をキラルという。ここで鏡写しの関係にある二つの化合物を光学異性体もしくはエナンチオマーと呼ぶ。光学異性体のうち片方を化学的に与える合成手法を不斉合成という。
注3)ボトムアップ型合成戦略:
パズルを組み合わせるように、合成の標的とする分子骨格の部分構造を繋げることで逐次的に組み上げる合成戦略。
注4)ラセミ化障壁:
光学異性体が反対の鏡像体に変化する際に必要なエネルギー。
注5)円偏光発光:
日常の光は右回りと左回りの円偏光が同じ割合で含まれているが、これらのうちどちらかに偏った光を発光する現象を円偏光発光という。
注6)可逆な酸化還元挙動:
分子から電子を奪うもしくは分子に電子を与える操作を行っても、生成物が安定であること。有機電子材料として利用する上で重要な性質。
注7)多孔性構造体:
内部に無数の微細な空孔を持つ物質の総称。ゼオライトや活性炭、MOFなどが代表例。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Skeletal transformation to chiral nanocarbon molecules
著者:平野 純一朗(名古屋大学)、井改 知幸(名古屋大学)、日下 心平(名古屋大学)、松田 亮太郎(名古屋大学)、忍久保 洋(名古屋大学)、福井 識人*(名古屋大学)(*は責任著者)
DOI: 10.1038/s41467-026-75280-6

URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-75280-6 

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 福井 識人 准教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic1/member/74_fukui.html