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医歯薬学

2026.08.27

難治性ネフローゼの治療薬リツキシマブが有効かは血液検査でわかる? ~T細胞の状態で治療効果を予測する~

【ポイント】

・タンパク質が尿に漏れ出してしまう病気、ネフローゼ症候群は一般的にステロイドで治療をしますが、ステロイド投与を止められない難治例(頻回再発型・ステロイド依存性)が少なくありません。こうした患者さんには免疫細胞の1種であるB細胞を除去するリツキシマブが有効であることが近年分かってきましたが、効く人と効かない人を採血で見分ける方法はありませんでした。

 

・血液中のT細胞の遺伝子発現状態を、リツキシマブの投与前後で解析(シングルセルRNAシークエンシング)したところ、薬が効いた患者さんでは効かない患者さんに比べて約18倍もの数の遺伝子が変動しており、CD4陽性細胞傷害性T細胞を中心にミトコンドリア機能の改善が示唆されました。本来リツキシマブが直接には標的としないT細胞の変化がリツキシマブへの反応性に関係している可能性が示されました。

 

・リツキシマブの効く患者さんにおいて、T細胞の代謝状態の変化は、T細胞の酸化ストレスを反映する活性酸素種(ROS)が低下することからも示唆されました。これらの知見はリツキシマブ治療が最適な患者さんをいち早く見つけ出す手がかりになることが期待されます。

 

名古屋大学 大学院医学系研究科腎臓内科学の古志衣里 助教(同 総合保健体育科学センター)、渡辺裕 助教(同 大学院医学系研究科分子腫瘍学)、古橋和拡 講師、丸山彰一 教授、および東京大学医科学研究所 生化学・統合がん研究分野(兼任:名古屋大学大学院医学系研究科 分子腫瘍学)の鈴木洋 教授らの研究グループは、難治性ネフローゼ症候群(*1)の治療薬リツキシマブ(RTX)(*2)が効く患者さんを採血で見分ける手がかりを、T細胞の遺伝子発現解析によって見いだしました。
微小変化型ネフローゼ症候群(MCD)(*3)は、まずステロイドで治療しますが、ステロイドを減らすたびに尿蛋白の再燃を繰り返してステロイド投与を止められない難治例(頻回再発型・ステロイド依存性)が少なくありません。こうした患者さんにはB細胞を除去するリツキシマブが有効ですが、効く人と効かない人を投与前に見分ける方法はありませんでした。
研究グループは、10年近くステロイドを止められなかった成人MCD患者さんを対象に、RTX投与の前後の採血でT細胞を採取し、1個ずつの細胞ごとに遺伝子発現を解析しました(シングルセル解析)。リツキシマブがよく効いた反応群と効かなかった非反応群を比較したところ、反応群では投与後にT細胞で非反応群に比べて約18倍もの数の遺伝子が変動し、CD4陽性細胞傷害性T細胞(*4)を中心にミトコンドリア(*5)のエネルギー代謝(酸化的リン酸化(*6))が高まっていることが推定されました。この代謝の変化は、T細胞の酸化ストレスを反映する活性酸素種(ROS)(*7)の測定からも示唆されました。
これらの結果から、リツキシマブの治療効果は、リツキシマブの直接的な標的であるB細胞そのものへの影響だけではなく、T細胞への波及効果と関連している可能性が示されました。T細胞の代謝状態やROSをバイオマーカー(*8)として使えれば、リツキシマブが効く患者さんをいち早く見極められ、難治性ネフローゼの治療最適化につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年8月21日付で米国科学誌『iScience』にオンライン掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 ネフローゼ症候群:腎臓の働きが乱れ、タンパク質が尿に大量に漏れ出す病気。
*2 リツキシマブ(RTX):白血球の一種のB細胞を減らす薬。
*3 微小変化型ネフローゼ症候群(MCD):ネフローゼ症候群を起こす代表的な原因疾患の一つで、腎臓の見た目には大きな変化がないもの。
*4 CD4陽性細胞傷害性T細胞:白血球の一種のT細胞のうち、異常な細胞を攻撃する働きを持つもの。
*5 ミトコンドリア:細胞の中でエネルギーをつくる「発電所」のような部分。
*6 酸化的リン酸化:ミトコンドリアでエネルギーを効率よく生み出す仕組み。
*7 活性酸素種(ROS):体の中で生じる物質で、増えすぎると細胞にダメージを与える。
*8 バイオマーカー:病気の状態や薬の効き目を判断する手がかりとなる指標。

 

【論文情報】

雑誌名:iScience(Cell Press)
論文タイトル:Single-cell transcriptomic signatures of T cells associated with Rituximab responsiveness in Idiopathic Nephrotic Syndrome
著者:Eri Koshi-Ito1,2,9, Yu Watanabe1,3,9, Chikao Onogi1, Asuka Horinouchi1, Koichi Ogami3,4, Seiko Yoshino3, Yohei Sugimoto3, Shintaro Komatsu1,3, Akihito Tanaka1,5, Kazuhiro Furuhashi1,5*, Shoichi Maruyama1,6, and Hiroshi I. Suzuki3,4,6,7,8*

 

1 Department of Nephrology, Internal Medicine, Graduate School of Medicine, Nagoya University; Nagoya.
2 Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University; Nagoya, Japan.
3 Division of Molecular Oncology, Center for Neurological Diseases and Cancer, Graduate School of Medicine, Nagoya University; Nagoya, Japan.
4 Division of Biochemistry and Integrative Cancer Research, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan.
5 Department of Nephrology, Nagoya University Hospital; Nagoya, Japan.
6 Institute for Glyco-core Research (iGCORE), Nagoya University, Nagoya, Japan.
7 Center for One Medicine Innovative Translational Research (COMIT); Nagoya University, Nagoya, Japan.
8 Inamori Research Institute for Science (InaRIS), Kyoto, Japan.
9 These two authors contributed equally
* Correspondence

DOI:10.1016/j.isci.2026.117237

URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117237 

 

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 分子腫瘍学 鈴木 洋 教授
https://www.suzukilab.info/access.html