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環境学

2026.08.07

雨が降ると河川水中の硝酸が増えるメカニズムを解明

【ポイント】

・雨が降ると河川水中の硝酸(NO3注1)濃度が著しく増えることが古くから知られていたが、そのメカニズムは未解明だった。

・降雨に伴う硝酸同位体組成注2)の変動を観測し、上流に位置する森林域の土壌、しかも亜表層に蓄積されていた硝酸の流出が原因であることを解明した。

・本研究の成果を踏まえると、降水量が増えることで森林域からの窒素栄養塩注3)の流出量が増大すると予想される。また降雨に伴って濃度が増大する硝酸の同位体組成を調べることで、その上流に位置する森林域の土壌環境を広域的に評価できる。

 

名古屋大学大学院環境学研究科の丁 瑋天(てい いてん) 博士(現:南昌大学)と角皆 潤 教授、中川 書子 准教授、アジア大気汚染研究センターの佐瀨 裕之 部長らを中心とする共同研究グループは、降雨に伴って河川水中の硝酸(NO3)の濃度が著しく増大する現象について研究し、流域の多くを占める森林土壌の亜表層(深さ10-90 cm程度)に蓄積した硝酸が原因であることを突き止めました
この現象は古くから知られていましたが、原因は解明されていませんでした。当研究グループは、降雨時およびその前後を含めて河川水を採取し、濃度上昇に伴う硝酸同位体組成の変動を測定することで、上記の結論に到達しました。河川の水位上昇が、森林土壌中に蓄積していた硝酸の流出を促進したものと考えられます。本研究に先立って小規模河川において実施した観測でも同様の結論に到達していましたが(Ding et al., 2022)、今回は一般の河川に広く当てはまることを証明しました。
硝酸は一次生産(光合成)を律速する栄養塩として知られていて、河川水中における濃度の増減は、下流に位置する湖沼や沿岸海洋域の一次生産量や生態系構造などに多大な影響を及ぼすことが知られています。今回の発見は、流域の環境が河川水を通して下流域の水環境に与える変化を評価する上で貴重な知見となります。さらに降雨に伴って増大する硝酸の同位体組成を調べることで、森林集水域の広域的な土壌環境を評価できることが明らかになったため、林学や土壌学への貢献も期待されます。
本研究成果は、2026年8月6日付で米国地球物理学連合(American Geophysical Union)の科学雑誌『Water Resources Research』オンライン版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)硝酸(NO3):

生物の必須元素である固定態窒素(N)の地球表層環境下における主要存在形態。代表的な栄養塩であり、その供給速度は、陸域・水域を問わず、一次生産(光合成)量や生態系構造を左右することが知られている。例えば、水域で高濃度化すると、富栄養化や生態系シフト等の環境問題を引き起こす。自然界に存在する硝酸は、大気から降水等を通じて地表に沈着する硝酸(大気硝酸)と、微生物がアンモニアの硝化反応を通じて作り出す硝酸(再無機化硝酸)に大別され、前者の大部分は地表から大気中に放出されたNOXを、後者の大部分は含窒素有機物(タンパク質やアミノ酸)を、その窒素(N)の起源として、地球表層圏内を循環している。なおNO3は、正しくは「硝酸イオン」と呼ぶべきだが、自然界にはHNO3やNaNO3といった形で存在するものも多くあり、これらを総称として「硝酸」と呼び、化学式は主要形であるNO3を使う習慣があるので、これに倣った。

注2)窒素および酸素の同位体組成:

自然界に存在する窒素原子の大部分(約99. 6%)は陽子7個と中性子7個の原子核から構成される質量数14の窒素原子(14Nと表記)であるが、陽子7個と中性子8個の原子核から構成される質量数15の窒素原子(15Nと表記)が0.4% 程度混在する。同じく酸素原子の大部分(約99. 8%)は陽子8個と中性子8個の原子核から構成される質量数16の酸素原子(16Oと表記)であるが、陽子8個と中性子9個の原子核から構成される質量数17の酸素原子(17Oと表記)が0.04% 程度、陽子8個と中性子10個の原子核から構成される質量数18の酸素原子(18Oと表記)が0.2% 程度混在する。これらはいずれも安定な原子核で、その相対存在比は放射壊変では変化しないが、自然界における化学反応や相変化などに際してその相対存在比が微小に変化するため、相対存在比に不均一が発生する。この不均一を「指紋」として活用することで、硝酸の起源などを特定することができる。

注3)栄養塩:

一次生産者(植物や植物プランクトン)の光合成を律速(=制限)する微量無機物質の総称。代表的な栄養塩に、窒素(硝酸やアンモニア)とリン(無機リン酸)がある。栄養塩が供給されると光合成が活発化するため、水域への過剰供給は富栄養化や赤潮、貧酸素化などの環境問題を引き起こし、また供給量の減少は漁業生産の減少を引き起こす可能性がある。また、栄養塩類の供給比の相対的な変化(=窒素とリンの供給比の変化)は主要一次生産者を変化させる可能性が高く、それを捕食する動物類を含めた生態系全体に大きな変化をもたらす危険性もある。

 

【論文情報】

論文名:Flushing of subsurface soil nitrate as the primary cause of increased stream nitrate during storm events
著者名:Weitian Ding1&2, Urumu Tsunogai2, Fumiko Nakagawa2, Takashi Sambuichi2, Wenhua Ruan2, Hiroyuki Sase3, and Masayuki Morohashi3

※1.南昌大学,※2.名古屋大学,※3.アジア大気汚染研究センター
掲載雑誌名:Water Resources Research
公表日:2026年8月6日
DOI:10.1029/2025WR043356
URL:http://dx.doi.org/10.1029/2025WR043356

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 角皆 潤 教授
https://biogeochem.has.env.nagoya-u.ac.jp/