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数物系科学

2026.09.17

南大洋の地表に届く長波放射を左右するのは雲の量だけではない 〜南極観測船「しらせ」の観測から判明、「水雲か氷雲」と気温の正確な再現が鍵〜

【ポイント】

国立極地研究所の佐藤和敏助教、猪上淳教授、名古屋大学の松井 仁志教授らの研究グループは、南極地域観測事業(注1)において南極観測船「しらせ」により南大洋で取得した気象観測データを基準とし、気候モデル(注2)と広く利用されている2つの再解析データ(注3)について、雲底の高度や雲相(水雲・氷雲)、気温、地表に到達する下向き短波・長波放射の再現性を評価しました。その結果、すべてのデータセットで高度1km以下の雲の発生頻度が観測に比べて高くなる傾向にあるのに対し、地表に到達する下向き長波放射が観測より小さくなる傾向が確認されました。この下向き長波放射の過小再現は、単純に「雲が多いか少ないか」だけでは説明できず、雲が水滴でできているか氷粒子でできているかという「雲の相状態(雲相)」と、大気の気温の再現性が重要であることが明らかになりました。
本研究は、南大洋の放射収支を正確に再現するためには、雲の発生頻度や雲の形成に寄与する大気中のエアロゾル濃度の再現性向上だけでは不十分で、雲相と気温を同時に改善する必要があることを示しました。この成果は、2026年7月31日付のGeophysical Research Letters誌オンライン版に掲載されました。

 

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【用語説明】

注1:南極地域観測事業
南極地域観測統合推進本部(本部長:文部科学大臣)の下、実施中核機関である国立極地研究所を中心に、関係省庁の連携・協力により国家事業として実施(昭和30年閣議決定)。南極地域観測計画に基づき、地球温暖化などの地球環境変動の解明に向け、各分野における地球の諸現象に関する研究・観測を推進。

 

注2:CAM-ATRAS
名古屋大学で開発された全球気候-エアロゾルモデル。気温、風、水蒸気、雲などの大気状態に加えて、エアロゾルの放出、大気中での輸送・変質・除去や、エアロゾルが雲形成に与える影響などを計算することができる。また、地表からのエアロゾル放出量を変化させることで、大気中のエアロゾル量の変化が雲や放射などの大気状態に与える影響を調べる感度実験を実施することができる。本研究では、南大洋における雲、エアロゾル、気温、放射などの再現性を観測データと比較するとともに、南半球の地表からのエアロゾル放出量を100倍に増加させた感度実験を実施した。

 

注3:再解析データ
数値予報モデルによる計算結果に、人工衛星、地上観測、ラジオゾンデなどの観測データを「データ同化」と呼ばれる手法で取り込み、過去の大気状態を時間的・空間的に連続して再現したデータセット。本研究では、極域研究で広く使用されているヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)のERA5と、米国航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターにある全球モデリング・同化室(GMAO)が開発したMERRA-2を使用した。

 

【論文情報】

掲載誌 :Geophysical Research Letters
タイトル :Evaluation of Low-Level Clouds, Temperature, and Surface Radiation Using a Model, Two Reanalyses, and Southern Ocean Observations
著者 :佐藤 和敏(国立極地研究所 国際極域・地球環境研究推進センター 助教)
猪上 淳(国立極地研究所 北極観測センター 教授)
松井 仁志(名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授)
URL:https://doi.org/10.1029/2026GL123000
DOI:10.1029/2026GL123000
論文公開日: 2026年7月31日

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 松井 仁志 教授
https://climate-env.isee.nagoya-u.ac.jp