・薬剤の副作用(オフターゲット効果注1))の影響を最小限にし、標的とするタンパク質の機能を正確に明らかにする新技術「ESCAPE法」を開発。
・全医薬品の約3割が標的とする重要なタンパク質「Gタンパク質共役型受容体(GPCR注2))」に本技術を適用し、汎用性の高さを証明。
・GPCRの一種であり重要な薬剤標的のアデノシンA2A受容体(A2AR)注3)に着目し、低酸素環境下で神経細胞が伸びるメカニズムの解明に成功。
私たちの体内では、細胞の表面にある「受容体」(センサー分子)がさまざまな情報を受け取ることで、生命活動を維持しています。中でも「Gタンパク質共役型受容体(GPCR)」は、多様な疾患における治療薬の標的として最も注目されているタンパク質ファミリーです。
受容体の働きを理解するため、従来は特定の受容体の働きを止める「阻害薬」が使われてきました。しかし、阻害薬には、狙った受容体以外のタンパク質にも作用してしまう、オフターゲット効果(思わぬ副作用)という大きな課題がありました。そのため、薬を投与した際に観察された現象が「狙った受容体の働きによるものか」、それとも「薬の余計な作用によるものなのか」を見分けることが非常に困難でした。
名古屋大学未来社会創造機構、大学院工学研究科の清中 茂樹 教授、松岡 佑真 博士後期課程学生らの研究グループは、東京科学大学生命理工学院生命理工学系の北尾 彰朗 教授、筑波大学医学医療系の水野 聖哉 教授、高橋 智 教授との共同研究により、薬の“余計な作用”の影響を受けずに、標的とするGPCR本来の機能だけをクリアに解き明かす新技術「ESCAPE法」を開発しました。
本技術により、低酸素状態において神経細胞が突起を伸ばすメカニズムを明確にしたほか、ゲノム編集技術を用いて、生体内と類似する環境下でも本技術が機能することを確かめました。本成果は、GPCRを標的としたより安全で効果的な疾患治療法の開発や、脳機能・神経疾患の解明に大きく貢献すると期待されます。
本研究成果は、2026年10月3日午前0時(日本時間)付で米国の学術雑誌『Cell Chemical Biology』に掲載されました。
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注1)オフターゲット効果:
薬が本来の標的(ターゲット)とするタンパク質以外の、想定外のタンパク質に結合して作用してしまう現象。実験データの誤解や、臨床における思わぬ副作用の原因となる。
注2)Gタンパク質共役型受容体(GPCR):
細胞膜に存在する受容体の最大ファミリー。光・におい・味や、ホルモン・神経伝達物質などを感知して細胞内に情報を伝える。全医薬品の約3割がGPCRを標的としている。
注3)アデノシンA2A受容体(A2AR):
GPCRの一種で、脳の神経系や免疫細胞に多く存在する。睡眠・覚醒の調整や運動機能、炎症反応などに関与し、パーキンソン病やがん免疫療法などの重要な創薬標的となっている。
雑誌名:Cell Chemical Biology
論文タイトル:ESCAPE enables receptor-specific chemogenetic dissection of GPCR signaling
著者:Yuma Matsuoka, Hajime Inoue, Tatsuki Hori, Duy Phuoc Tran, Akio Kitao, Hayate Suzuki, Seiya Mizuno, Satoru Takahashi, Tomohiro Doura, Shigeki Kiyonaka+ +Corresponding author
DOI: https://doi.org/10.1016/j.chembiol.2026.09.008
大学院工学研究科・未来社会創造機構 清中 茂樹 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/life1/index.html