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医歯薬学

2026.10.22

気管支肺異形成(新生児慢性肺疾患)に対するMultilineage-differentiating stress-enduring (Muse)細胞静脈内投与の治療可能性をラットモデルで確認

【ポイント】

・早産児に多い重症な気管支肺異形成(Bronchopulmonary dysplasia : BPD、国内では新生児慢性肺疾患(Chronic lung diseases: CLD))1)様の特徴を示す高酸素誘導新生仔ラット肺障害モデル2)において、間葉系幹細胞3)(Mesenchymal stromal cell : MSC)の一部であるMuse細胞の静脈内投与が肺障害を軽減する可能性を示しました。
・Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse)細胞4)は、non-Muse細胞5)(MSCからMuse細胞を除いたもの)と比較して、肺組織障害、肺炎症、肺高血圧6)をより強く軽減しました。
・投与されたMuse細胞は肺組織内に生着し、一部で肺胞上皮細胞に関連するマーカーを発現していました。
・プロテオミクス7)解析により、BPD様肺障害で変動する細胞接着および凝固/線溶8)関連タンパク質群の一部が、Muse細胞投与に伴って変動することが示されました。
・充分な治療のないBPD/CLDに対して、新たな治療法に繋がることが期待されます。

 

名古屋大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター新生児部門/小児科の三浦良介特任助教、小野田淳人研究員(研究当時、現 山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部薬学科 衛生化学研究室 講師)、佐藤義朗センター長/小児科診療教授(責任著者)、同大学大学院医学系研究科小児科学の高橋義行教授らの研究グループは、気管支肺異形成(bronchopulmonary dysplasia : BPD、国内では新生児慢性肺疾患(Chronic lung diseases: CLD))様の特徴を示す高酸素誘導肺障害ラットモデルを用いて、Muse細胞の静脈内投与による治療効果を検討しました。BPD/CLDは、早産児に多くみられる肺疾患で、肺胞の発達障害、炎症、肺高血圧などを伴い、退院後も呼吸障害が長期に続いたり発達障害を来たしたりすることがあります。現在、根本的な治療法は確立されておらず、新たな治療法の開発が求められています。本研究では、新生仔ラットを高酸素環境に曝露してBPD/CLD様の肺障害モデルを作製し、Muse細胞またはnon-Muse細胞を投与しました。その結果、静脈内投与されたMuse細胞は肺組織に生着し、一部で肺胞上皮細胞に関連するマーカーを発現しました。また、Muse細胞投与群では、肺組織障害、炎症、肺高血圧の軽減が認められました。さらに、プロテオミクス解析により、細胞接着および凝固/線溶関連経路に関わるタンパク質群がBPD/CLD様肺障害およびMuse細胞投与に関連して変動することが明らかになりました。投与経路として、静脈内投与と気管内投与を比較したところ、呼吸機能、肺組織、炎症に対する改善効果は投与経路間で大きな差は認められませんでしたが、気管内投与では体重増加や生存率に不利な影響がみられました。本成果は、気管支肺異形成に対するMuse細胞治療の可能性を示す前臨床的知見であり、今後の治療法開発に貢献することが期待されます。本研究成果は、2026年9月4日付で、英国の国際学術誌「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されました。

 

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【用語説明】

1.気管支肺異形成(Bronchopulmonary dysplasia : BPD、国内では新生児慢性肺疾患(Chronic lung diseases: CLD))
早産児に多くみられる慢性肺疾患。肺胞や肺血管の発達障害、炎症、肺高血圧などを伴い、長期の酸素投与や呼吸管理が必要となることがあります。

 

2.高酸素誘導新生仔ラット肺障害モデル
新生仔動物を高濃度酸素環境に曝露することで、肺胞発達障害や肺血管異常などBPD/CLDに類似した特徴を再現する実験モデル。本研究では83%酸素曝露により作製しました。

 

3.間葉系幹細胞(Mesenchymal stromal cell : MSC)
骨髄、脂肪、臍帯などに存在する細胞群で、炎症調節や組織修復に関与する可能性があり、再生医療研究で広く用いられています。

 

4.Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse)細胞
間葉系幹細胞の中に含まれる細胞群で、傷害部位に集まりやすく、組織修復に関与する可能性が報告されています。

 

5.non-Muse細胞
MSCのうち、Muse細胞の特徴であるSSEA-3を発現しない細胞群。本研究ではMuse細胞との比較対象として用いました。

 

6.肺高血圧
肺の血管抵抗が上昇し、右心室に負担がかかる状態。BPD/CLDの重症例では重要な合併症となります。

 

7.プロテオミクス
組織や細胞に含まれるタンパク質を網羅的に解析する技術。病態や治療反応に関連する分子経路を探索するために用いられます。

 

8.凝固/線溶系
血液を固める仕組みと、できた血栓やフィブリンを分解する仕組みの総称。炎症や血管障害とも関連します。本研究では機能的な凝固検査ではなく、関連タンパク質の発現変動を解析しました。

 

【論文情報】

雑誌名:Stem Cell Research & Therapy
論文タイトル:Intravenously delivered multilineage-differentiating stress-enduring cells dampen hyperoxia-induced lung injury in a rat model with features of bronchopulmonary dysplasia
著者:Ryosuke Miura*, Atsuto Onoda*, Azusa Okamoto, Toshihiko Suzuki, Takahiro Kanzawa, Sakiko Suzuki, Kazuto Ueda, Shinobu Shimizu, Yoshiyuki Takahashi, Masahiro Hayakawa, Yoshiaki Sato**
* (共同第一著者)  **(責任著者)
いずれも本学職員です

DOI: 10.1186/s13287-026-05086-2

URL: https://doi.org/10.1186/s13287-026-05086-2

 

 

【研究代表者】

医学部附属病院総合周産期母子医療センター新生児部門/小児科 三浦 良介 特任助教
https://nagoya-u-ped.jp/

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