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医歯薬学

2026.10.22

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の多様性を読み解く新たな手がかり ~アルツハイマー病関連の変化に着目~

【ポイント】

・ALS患者の約14%で、アルツハイマー病合併を示唆する脳脊髄液の所見が認められました。こうした変化はアルツハイマー病の症状が現れる前から検査で捉えられることが知られています。
・この所見があるALS患者では、神経の損傷を反映するタンパク質「ニューロフィラメント軽鎖(NfL)」の高値と、運動機能低下の速さや生存期間の短さとの関連がより強く認められました。
・またNfLにアミロイド関連の指標や筋肉の損傷を反映するマーカーなどを組み合わせることで、ALSと他の神経疾患を見分ける精度が向上しました。NfLで最初の評価を行い、中間的な値の患者に詳しい検査を追加する二段階アプローチの有用性も示唆されました。
・これらの結果は、ALS患者さん一人ひとりの病態に応じた診断・進行予測を行う「個別化医療」や、より適切な臨床試験の設計につながると期待されます。

 

名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央 教授、臨床研究教育学の伊藤大輔 特任助教(研究当時、現 医学部附属病院先端医療開発部 病院講師)、小原一輝 博士課程大学院生(筆頭著者、名古屋大学・ルンド大学国際連携総合医学専攻)らの研究グループは、アルツハイマー病に関連する脳脊髄液(*1)中のタンパク質が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(*2)の診断や予後評価にも重要な情報をもたらす可能性を示しました。本研究はルンド大学Clinical Memory Research Unit、ボローニャ大学、愛知医科大学内科学講座(神経内科)の中村亮一 准教授、熱田直樹 教授、ALS治療研究開発部門の祖父江元 特命学長との共同研究として実施されました。

 

ALSは、筋肉を動かす運動神経が徐々に失われる病気です。早期の診断が難しく、進行の速さにも大きな個人差があるため、その後の経過を見通すことが課題となっています。神経の損傷を反映する「ニューロフィラメント軽鎖(NfL)」(*3)は、ALSの診断や進行予測に役立つことが知られていますが、患者間の違いを十分には説明できません。剖検例などの検討から、こうしたALSの多様性には、加齢に伴う他の神経変性疾患の病理(*4)の併存も関わっているのではないかという仮説があります。特にアルツハイマー病に関連する病理は、近年の検査技術の進歩により、認知症の症状が現れる前から、脳脊髄液(*1)中のタンパク質の変化を通じて高い精度で捉えられるようになりました。しかし、こうした病的変化の合併がALS患者の臨床像にどのように関わるかは、十分明らかになっていませんでした。

 

本研究では、本邦のALS患者264人と他の神経疾患の患者164人を対象に、脳脊髄液(*1)中の「アミロイドβ」(*5)など、アルツハイマー病と関連の深いタンパク質を中心に調べました。その結果、ALS患者の約14%で、アルツハイマー病に特徴的な「アミロイドβ病理」(*6)を示唆する所見が認められました。この所見がある患者では、NfL高値と機能低下の速さ・生存期間の短さとの関連が、所見のない患者より強く認められました。イタリアのALS患者153人でも、生存期間について同様の傾向がみられました。

診断についても、アミロイドβ関連の指標を含む複数のマーカーの情報を機械学習(*7)で組み合わせることで、NfL単独よりも、ALSと他の神経疾患を正確に見分けられるようになりました。また、まずNfLの値によってALSの可能性が高い群と低い群を分け、中間的な値の患者には追加のマーカーを用いる、という二段階の評価も検討しました。この評価でも、NfLだけでは判断が難しい患者の診断を、アミロイドβ関連の指標を含む複数のマーカーの情報によって補助できる可能性が示されました。

これらの結果は、患者一人ひとりの病態に応じた診断・進行予測を行う「個別化医療」や、患者の特性を考慮した臨床試験の設計・評価につながると期待されます。

本研究成果は、2026年10月21日、国際医学誌『eBioMedicine』(The Lancet Discovery Science)に掲載されました。

 

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【用語説明】

*1)脳脊髄液
脳や脊髄を取り囲み、保護している液体です。含まれるタンパク質などを調べることで、神経の損傷や脳内の病的変化の手がかりを得られます。
*2)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋肉を動かす運動神経が徐々に失われる病気です。手足の筋力低下に加え、会話、飲み込み、呼吸などにも支障が生じます。進行の速さは患者によって大きく異なります。
*3)ニューロフィラメント軽鎖(NfL)
神経細胞の構造を支えるタンパク質の一つです。神経が損傷すると脳脊髄液や血液中に増加します。ALSでは、高い値が速い機能低下や短い生存期間と関連することが知られています。ALS以外の病気でも増加するため、この値だけでALSと診断することはできません。症状や診察所見、他の検査結果と併せて判断します。
*4)病理
病気に伴って細胞や組織に生じる変化のことです。神経変性疾患では、特定のタンパク質の異常な蓄積や神経細胞の減少などがみられます。こうした変化は、症状が現れる前から存在する場合もあります。
*5)アミロイドβ
脳内で通常もつくられるタンパク質の一つです。アルツハイマー病では、これが集まって脳内に蓄積します。長さの異なる複数の種類があり、本研究では主にアミロイドβ38、40、42を調べました。
*6)アミロイドβ病理
アミロイドβが脳内に異常に蓄積した状態です。アルツハイマー病に特徴的な変化の一つで、認知症の症状が現れる前から存在することがあります。本研究では、脳脊髄液中のアミロイドβ42とアミロイドβ40の比率を用いて、この病理の存在を推定しました。
*7)機械学習
複数の測定値に含まれるパターンをコンピューターが学習し、分類や予測に活用する方法です。本研究では複数のマーカーの情報を組み合わせ、ALSと他の神経疾患を見分けることや予後を予測することに活用しました。

 

【論文情報】

雑誌名:eBioMedicine, Part of THE LANCET Discovery Science
論文タイトル:Cerebrospinal fluid amyloid and neurodegeneration biomarkers in the diagnosis and prognosis of amyotrophic lateral sclerosis: a multicohort observational study
著者:
Kazuki Obara,1,2 Shorena Janelidze,1 Daisuke Ito,2,3 Linda Karlsson,1 Munetaka Yamamoto,2 Andrea Mastrangelo,4,5 Sinh Tran,1 Koyo Tsujikawa,2,6 Yosuke Nishio,6,7 Tomoo Ogi,6
Veria Vacchiano,5 Rocco Liguori,4,5 Ryoichi Nakamura,8 Naoki Atsuta,8 Gen Sobue,8,9 Christer Nilsson,10 Piero Parchi,4,5 Masahisa Katsuno,2† and Niklas Mattsson-Carlgren1,11,12†
†These authors jointly supervised this work.

1. Clinical Memory Research Unit, Department of Clinical Sciences Malmö, Lund University, Lund, Sweden.
2. Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan.
3. Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan.
4. Department of Biomedical and Neuromotor Sciences, University of Bologna, Bologna, Italy.
5. IRCCS, Istituto delle Scienze Neurologiche di Bologna, Bologna, Italy.
6. Department of Genetics, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University, Nagoya, Aichi, Japan.
7. Medical Genomics Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, Aichi, Japan.
8. Department of Neurology, Aichi Medical University School of Medicine, Aichi, Japan.
9. Division of ALS Research, Aichi Medical University School of Medicine, Aichi, Japan.
10. Department of Neurology and Rehabilitation Medicine, Skåne University Hospital, Lund, Sweden.
11. Memory Clinic, Skåne University Hospital, Malmö, Sweden.
12. Wallenberg Center for Molecular Medicine, Lund University, Lund, Sweden.

DOI: https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2026.106511

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 神経内科学 勝野 雅央 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/clinical-neurosciences/neurology/

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