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医歯薬学

2026.10.02

「下垂体機能低下症」の機能回復を目指す再生医療 ~ヒト多能性幹細胞由来の下垂体組織をサルへ皮下移植し、機能回復に世界で初めて成功~

【ポイント】

・下垂体機能低下症は生涯にわたるホルモン補充療法が必要となる難病である。ヒト多能性幹細胞(hPSC)を材料に作製した副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生細胞を含む下垂体-視床下部オルガノイドをモデル動物に皮下移植することで治療コンセプトを検証した。
・下垂体機能不全モデルの免疫不全マウスの皮下(脂肪組織や筋肉内)にhPSCから分化誘導した下垂体-視床下部オルガノイドを移植した。移植細胞は生着しACTHを分泌するとともに、マウスの生存期間を有意に延長させた。
・免疫正常なカニクイザルから下垂体を切除し、ヒト臨床の膵島移植で用いられる免疫抑制療法下で、下垂体-視床下部オルガノイドを皮下移植した。その結果、少なくとも移植後6週間にわたって血中のACTHおよびコルチゾール濃度の上昇が確認され、ACTH欠乏に伴う著明な体重減少を緩和させた。下垂体機能低下症について、再生医療による治療可能性を霊長類レベルで検証した、世界初の研究成果である。

 

名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学の近藤 辰磨 客員研究者、糖尿病・内分泌内科学の須賀 英隆 准教授、有馬 寛 教授、腫瘍病理学(分子病理学)の榎本 篤教授、脳神経外科学の齋藤 竜太 教授らの研究グループは、株式会社RACTHERA、滋賀医科大学、京都大学との共同研究で、ヒト多能性幹細胞(hPSC)*1)由来の「下垂体-視床下部オルガノイド」を下垂体機能低下症モデル動物(マウスおよびカニクイザル)の皮下に移植し、ホルモン分泌機能の回復に成功しました。霊長類で下垂体-視床下部オルガノイド移植の効果を示した、世界で初めての報告です。
下垂体機能低下症は10万人あたり約45.5人が罹患する指定難病です。特に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)*2)の欠乏は致命的な副腎不全を引き起こします。標準治療である生涯にわたるホルモン補充療法では、各種ストレスや日内変動に合わせた需要変動に供給を合わせられず、生命予後に影響を及ぼす場合があります。
本研究では、最初に、下垂体機能不全モデルの免疫不全マウスの皮下(脂肪組織や筋肉内)にhPSCから分化誘導した下垂体-視床下部オルガノイドを移植しました。移植片は生着し、6ヶ月以上にわたりACTHを分泌し、結果として生存期間を有意に延長させました。次にカニクイザルでの移植実験を実施しました。下垂体除去を行ったカニクイザルに、臨床現場で使われるプロトコルで免疫抑制をかけ、hPSC由来下垂体-視床下部オルガノイドを皮下へ移植しました。これは異種移植にあたるので一般に長期生着を望めませんが、今回の移植では少なくとも6週間にわたって血中ACTH濃度が上昇し、下垂体機能低下症による体重減少に歯止めがかかりました。
本成果により、移植状態を確認しやすい「皮下移植」でもhPSC由来下垂体-視床下部オルガノイドが機能することが証明されました。今後は医療用iPS細胞*3)を用いた大量生産方法の確立や長期的な安全性の検証を進め、下垂体機能低下症に対する再生医療としての臨床試験実施を目指します。
本研究は AMED難治性疾患実用化研究事業「臨床用ヒトiPS細胞から誘導した精製下垂体による再生医療開発」、JST創発的研究支援事業(JPMJFR200N)、JSPS科研費(JP23K08005)、名古屋大学医学部附属病院先端研究支援経費、株式会社RACTHERA、住友ファーマ株式会社、住友化学株式会社の支援を受けて実施され、2026年10月2日付(日本時間10月2日10時)BMC(BioMed Central) / Springer Nature雑誌『Stem Cell Research & Therapy』誌オンライン版に掲載されました。

 

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【用語説明】

*1)ヒト多能性幹細胞(hPSC)
ヒトの生体を構成するほぼすべての細胞・組織へ変化できる能力(多能性)と、自分と同じ細胞を無限に増やすことができる能力(自己複製能)を併せ持つ細胞の総称です。

 

*2)副腎皮質刺激ホルモン(ACTH):下垂体前葉から分泌され、生体のストレス応答を制御する主要ホルモン
視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を構成する重要なホルモン。視床下部からの刺激(CRH)を受けて下垂体前葉から分泌され、副腎皮質に作用して糖質コルチコイド(コルチゾール)の合成・分泌を促す。生体の代謝調節やストレスへの対抗に不可欠であり、これが減少・枯渇すると、重度の全身倦怠感、低血圧、低血糖などを引き起こし(これを副腎不全と呼ぶ)、生命維持に深刻な影響を及ぼす。

 

*3)人工多能性(iPS)細胞:体細胞を人工的に初期化した、拒絶リスクの低い万能細胞
皮膚や血液などの分化した体細胞に、特定の遺伝子を導入することで、受精卵のような分化多能性を持たせるようにした人工の多能性幹細胞。京都大学の山中伸弥教授らのグループによって開発された。ES細胞の倫理的課題をクリアしているほか、本人の細胞から作製できるため、移植医療において免疫拒絶リスクを抑えられる点が大きなメリットである。

 

【論文情報】

雑誌名:Stem Cell Research & Therapy
論文タイトル:Functional analysis of adrenocorticotropic-hormone–producing pituitary cells derived from human pluripotent stem cells in murine and primate models of hypopituitarism.
著者:
近藤 辰磨¹˒²、須賀 英隆²、渡 健治³、多賀 詩織³、榊原 真弓²、宗圓 美香²、河本 育士⁴、西田 一貴⁵、江本 遼⁵、白木 之浩⁶、佐々木 博勇¹、三輪田 勤²、廣瀬 俊明¹˒²、永田 雄一7、竹内 和人¹、中野 徳重³、池田 篤史³、桑原 篤³、榎本 篤⁶、土屋 英明⁴、有馬 寛²、齋藤 竜太¹
所属機関:
1:名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科学
2:名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学
3:株式会社RACTHERA(ラクセラ)
4:滋賀医科大学 動物生命科学研究センター
5:京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療データ科学分野
6:名古屋大学大学院医学系研究科 分子病理学・腫瘍病理学
7:名古屋大学医学部附属病院 脳神経外科
DOI: 10.1186/s13287-026-05098-y
URL: https://doi.org/10.1186/s13287-026-05098-y

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学 須賀 英隆 准教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/endodm/

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