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医歯薬学

2021.01.20

その湿疹、放置して大丈夫ですか? ~乳房外パジェット病のリンパ節転移と末梢血好中球/リンパ球比~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院皮膚科の江畑 葵(えばた あおい)専攻医、滝 奉樹(たき ともき)病院助教、森 章一郎(もり しょういちろう)医員、秋山 真志(あきやま まさし)教授らの研究グループは、乳房外パジェット病※1の患者において、術前の末梢血好中球/リンパ球比※2がリンパ節転移の予測因子になりうることを明らかにしました。
乳房外パジェット病は、陰部や脇などにできるがんの一種です。初期に発見されれば、他の臓器に転移は少なく、予後も良好です。しかし、リンパ節や他の臓器に転移をきたした進行例は、一転して予後が悪くなってしまいます。この両者を区別するのに有用な検査の一つとしてセンチネルリンパ節生検※3があります。センチネルリンパ節生検は顕微鏡レベルで腫瘍の転移の有無を判断するのに有用な検査である反面、特殊な画像検査でリンパ節を探し、メスで切除して調べる検査であるため、患者さんの負担が増えてしまいます。また、初期の乳房外パジェット病ではリンパ節転移はほとんどの場合認められず、そのような患者さんにセンチネルリンパ節生検を行うことは、不必要に患者さんの体にメスを入れることになり、どの患者さんに対してセンチネルリンパ節生検を行うべきかどうかは、判断に悩むところでした。
本研究では、2003 年 3 月から 2020 年 3 月の間に名大病院でセンチネルリンパ節生検を行った乳房外パジェット病患者さん 137 名についてデータを集めて解析を行いました。その結果、術前の血液検査の項目の一つである末梢血好中球/リンパ球比が 3 より大きい場合、センチネルリンパ節生検で転移を認めることが多いことを明らかにしました。ごく一般的な血液検査で得られる末梢血好中球/リンパ球比が、乳房外パジェット病のどの患者にセンチネルリンパ節生検を行うべきかを判断する一つの指標となることを示した、今回の研究成果は、今後の乳房外パジェット病の治療方針決定に大きく寄与することが期待されます。
本研究成果は、令和 3 年 1 月 19 日付(米国時間)に、米国の医学雑誌「Journal of the American Academy of Dermatology」のオンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・ 乳房外パジェット病は高齢者に多い悪性腫瘍であり、リンパ節転移を認めた場合は予後不良である。
・ センチネルリンパ節生検が 2020 年より保険適応となった。
・解析の結果から、術前の血液検査における好中球/リンパ球比が 3 より大きいことがセンチネルリンパ節転移と有意に関係していることがわかった。
・術前の末梢血好中球/リンパ球比が、その患者さんにセンチネルリンパ節生検が必要かの判断材料になる可能性がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 乳房外パジェット病
陰部や脇などにできる皮膚がんの一種で、高齢者に多く、進行は遅い。
※2 センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節とは、がん病巣から流れ出たリンパ液が最初に行き着くリンパ節であり、転移が最初に起こる可能性が高い部位。センチネルリンパ節生検は、センチネルリンパ節を見つけ出して摘出し、顕微鏡レベルで腫瘍細胞が転移していないかを調べる検査。
※3 末梢血好中球/リンパ球比
一般的な血液検査の項目である末梢血中の好中球数をリンパ球数で割った値。

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of the American Academy of Dermatology
論文タイトル:Neutrophil-to-lymphocyte ratio as a predictor of lymph node metastasis in extramammary Paget’s disease: A retrospective study
著者:Aoi Ebata, Tomoki Taki, Shoichiro Mori, Yoshie Murakami, Toru Urata, Mao Okumura, Honami Akanabe, Satoko Imai, Kenji Yokota and Masashi Akiyama
所属:Department of Dermatology, Nagoya University Graduate School of Medicine
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jaad.2020.12.087
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ame_Aca_Derm_210120en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 滝 奉樹 助教

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/derma/