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医歯薬学

2021.02.26

AR(強化現実)を用いた次世代型肘関節鏡手術の開発

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科手で外科学の山本 美知郎 特任講師、平田 仁 教授、名古屋大学医学部附属病院メディカル IT センターの大山 慎太郎 特任助教は、理化学研究所光量子工学研究センター画像情報処理研究チームの横田 秀夫 チームリーダーらと共同研究を行い、AR(強化現実)の技術を導入した次世代型肘関節鏡手術を開発しました。本邦で開発された関節鏡手術は世界中に広がり、現在では整形外科の標準的治療となっています。しかし、特に肘関節鏡手術においては重大な神経損傷などの合併症が発生しており、低侵襲で有効な治療を提供するために安全性に配慮した次世代型関節鏡の開発が必要でした。
CT※1・MRI※2といった異なるモダリティ(医用画像機器)から抽出した骨や神経の 3 次元データを専用ソフトウエアで再構成し、関節鏡モニターにリアルタイムに重畳表示する AR 技術を導入した次世代型関節鏡システムを開発し、3D プリンターで作成した実物大モデルとサルの肘関節を用いて実証実験を行いました。構成された画像データはリアルタイムに関節鏡モニターに重畳表示され、従来の関節鏡では視認できない神経の位置情報をモニターで確認し、本システムが実行可能であることを示しました。さらに 30 度の斜視鏡を用いて重畳表示の精度を調査した結果、20mm の関節鏡先端と対物間距離において 1.63 ± 0.49 mm のズレを認めましたが、数値的には AR 肘関節鏡が臨床応用として許容される誤差と考えられるものでした。解決すべきハードルがいくつか残ってはいますが、肘関節鏡手術の安全性向上に寄与する ARを導入した次世代型肘関節鏡システムの開発が本研究によって大きく前進しました。

本研究成果は、2021 年 2 月 25 日付(日本時間 19 時)国際科学雑誌 Scientific Reports に掲載されました。


【ポイント】

○ 本邦で開発された関節鏡は世界に広まりました。しかし肘関節鏡は術中神経損傷などの合併症が世界中で起きています。
○ 従来の関節鏡に CT や MRI などの術前画像情報を再構成して AR(強化現実)として導入することにより、神経の位置情報を確認しながら安全に手術を行うことが出来るようになります。

○ 実体モデルとサルの肘関節を用いて次世代型 AR 肘関節鏡手術が実行可能であることを示しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 CT:computed tomography, コンピュータ断層撮影
※2 MRI:magnetic resonance imaging, 核磁気共鳴画像法

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Experimental pilot study for augmented reality enhanced elbow arthroscopy
著者・所属:山本美知郎 手の外科(個別化医療技術開発講座) 大山慎太郎 手の外科(メディカル IT センター) 大塚嵩斗 理化学研究所 光量子工学研究センター 画像情報処理研究チーム(研究当時) 村上幸己 理化学研究所 光量子工学研究センター 画像情報処理研究チーム 横田秀夫 理化学研究所 光量子工学研究センター 画像情報処理研究チーム 平田仁 手の外科
DOI:10.1038/s41598-021-84062-7
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_Rep_210225en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 山本 美知郎 特任講師

http://meidai-seikei.jp/group/tenogeka