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農学

2021.02.26

ドローンで噴火中の火山ガス採取に成功 ~小型・軽量の自動火山ガス採取装置開発~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の新宮原 諒 研究員、角皆 潤 教授、伊藤 昌稚 特任助教、中川 書子 准教授らと、京都大学の横尾 亮彦 准教授らの共同研究グループは、高濃度の火山ガスを採取するため、ドローンに搭載可能な小型・軽量の自動火山ガス採取装置を開発しました。これは火山ガスに特異的に含まれる二酸化硫黄が一定濃度を超えたとき、これを自動的に採取して持ち帰るものです。実際にドローンに搭載した阿蘇中岳の観測では、高濃度火山ガスの採取に成功し、水素ガスの安定同位体含有率注1)から、噴気温度の遠隔推定などにも成功しました。

火山ガスの組成は、マグマの起源や脱ガス深度、脱ガス率、地下水の接触の有無等を直接的に反映して変化するため、その時間変化の観測は噴火メカニズムの解明や噴火継続時間の予測などにきわめて有用です。その一方で火山ガスの採取は危険を伴うことが多く、噴火中の火山では観測出来ないのが欠点でした。近年は遠隔からリアルタイムで火山ガス組成を測定する手法も発展していますが、得られる情報は大きく制限されていました。本器を活用することで、噴火中でも火山ガスを採取できるようになります。マグマ起源の場合と、地下水起源の場合で大きく変化する火山ガス中の水蒸気の同位体含有率注2)も定量出来るようになることから、マグマ噴火と水蒸気噴火の判別に利用出来ます。

この成果は、2021年2月26日付けで科学雑誌「Journal of Volcanology and Geothermal Research」オンライン版にInvited Research Articleとして掲載されました。

なお当成果は、文部科学省次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト(課題B「先端的な火山観測技術の開発」)の支援や、阿蘇火山防災会議協議会の協力により創出されたものです。

 

【ポイント】

・噴火中の火山から放出される火山ガスを採取するため、ドローンに搭載できる小型・自動の火山ガス採取装置を開発した。

・開発した装置は、火山ガスに特徴的な二酸化硫黄濃度を火山ガス濃度の指標として用いており、これによって大気による希釈を最小限に抑えた火山ガスを採取することができる。

・当装置を用いて採取した阿蘇中岳の火山ガス試料に含まれていた水素ガスの安定同位体含有率から、高精度の噴気温度推定を実現した。

・当装置は火山ガス中の水蒸気の同位体含有率観測にも利用できる。噴火中の火山でこれを観測することでマグマ噴火と水蒸気噴火を判別出来る。

・今後は、人が噴気孔に接近できない火山や噴火中の火山でも火山ガスの採取が実現する。火山活動の評価や予測に火山ガス組成の変化が活用出来るようになる。

・この成果は、科学雑誌「Journal of Volcanology and Geothermal Research」誌にInvited Research Article(招待論文)として掲載されることが決定した。

 

 ◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 水素ガスの安定同位体含有率: 水素ガス(H2)を構成する水素原子は、大部分が質量数1の軽水素原子(1Hと表記)であるが、中性子が1個多い質量数2の重水素原子(2HもしくはDと表記)が約0.02%混在する。これらの原子核はいずれも安定であるが、重水素原子が水素原子全体に占める比率(同位体含有率もしくは同位体比と呼ばれる)は自然界における諸過程を経由する際に微小に変化する。火山の噴気口内では、水素ガス(H2)と主成分の水蒸気(H2O)の間で水素原子が交換され、水素ガスの同位体含有率が変化する。その結果、水素ガスの同位体含有率は噴気口内の温度を反映する。

 

注2) 水蒸気の同位体含有率: 水蒸気(H2O)を構成する水素原子についても、軽水素と重水素が存在する。また、水蒸気に含まれる酸素原子も質量数の違いによって3種類(16O・17O・18O)がある。水蒸気中の水素原子全体に2Hが占める比率と、酸素原子全体に18Oが占める比率をあわせて、水蒸気の同位体含有率と呼ばれ、その水蒸気の起源や経由した諸過程の解明に活用されている。水蒸気は火山噴煙の主成分であるが、マグマ起源の水蒸気と、地下水起源の水蒸気の間で同位体含有率が異なることが知られている。そこで、噴煙の水蒸気同位体含有率を観測することにより、マグマ噴火(噴煙にマグマ起源の水蒸気が含まれる)と水蒸気噴火(噴煙に地下水起源の水蒸気が含まれる)を区別できる可能性がある。

 

【論文情報】 

掲載雑誌:Journal of Volcanology and Geothermal Research(Elsevier社)

論文名:Development of a drone-borne volcanic plume sampler(ドローン搭載火山噴煙採取装置の開発)

著者:Ryo Shingubara1, Urumu Tsunogai1, Masanori Ito1, Fumiko Nakagawa1, Shin Yoshikawa2, Mitsuru Utsugi2 and Akihiko Yokoo2 (新宮原 諒1, 角皆 潤1, 伊藤 昌稚1,中川 書子1, 吉川 慎2,宇津木 充2,横尾 亮彦2) (1. 名古屋大学,2. 京都大学)

公表日 プレプルーフ: 日本時間 2月7日 (現地時間2月6日)

最終版: 日本時間2月26日 (現地時間2月26日)

DOI:10.1016/j.jvolgeores.2021.107197

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 角皆 潤 教授

http://biogeochem.has.env.nagoya-u.ac.jp/