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生物学

2021.03.05

細菌べん毛モーターの基礎となる MSリングの構造を解明 1種類の分子34個が集合して織りなす複雑なシンメトリー構造

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の本間 道夫 教授、大阪大学大学院理学研究科の今田 勝巳 教授、竹川 宜宏 助教、大阪大学大学院生命機能研究科の難波 啓一 特任教授らの共同研究グループは、細菌のべん毛モーターの基礎となる蛋白質複合体『MSリング』の構造と集合のしくみを明らかにしました。

べん毛の基礎部分には、MSリングと呼ばれる巨大で複雑な形の構造体があります。約30年前にMSリングがFliFという一種類の蛋白質が多数集合してできていることがわかりました。しかし、MSリングの形はあまりに複雑で、FliFがどのように集合してMSリングができているのか、ずっと謎でした。

今回、共同研究グループは、クライオ電子顕微鏡を用いた観察とX線結晶構造解析を組み合わせることで、MSリング内でのFliFの集合様式を原子レベルで解明しました。これにより、複雑な生体分子モーターの機構解明はもちろんのこと、自然界に多く存在するリング状の分子複合体の進化の解明、将来の人工分子装置や分子デバイスの設計に役立てることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「mBio」に2021年3月3日(日本時間)にオンライン公開されました。    

 

【ポイント】

・ 細菌の運動器官(べん毛)の基礎部分であるMSリング※1の構造を、クライオ電子顕微鏡※2解析法とX線結晶構造解析法※3を組み合わせて解明した。

・ MSリングは2種類の構造を持つFliF蛋白質が34個集まって形成される。

・ MSリングは、34個の分子が関係するリング、23個の分子が関係するリング、11個の分子がリング状に並んだ領域で構成される。

・ たった1種類の蛋白質から3種類の回転対称性(シンメトリー)が生み出されて大きな構造体を形成するという前例のない発見であり、生体分子モーターの機構解明のみならず、細胞内の分子複合体の進化の解明、将来の人工分子装置の設計にもつながる成果である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1  MSリング

べん毛モーターを構成する構造体の一つ。べん毛形成の際の土台の役割を担う。一種類の蛋白質FliFが34個集まることで形成される。

※2  クライオ電子顕微鏡

観察試料ステージを液体窒素や液体ヘリウムによって冷却することができる電子顕微鏡。主にタンパク質など生体試料の構造解析に用いられる。試料を液体エタンで急速に凍結するため、生体分子を機能状態の構造として直接観察できる。

※3  X線結晶構造解析

結晶にX線を当てたときに生じるパターンから結晶中の分子の構造を調べる実験手法。蛋白質のような生体試料を結晶化することで、原子分解能での構造解析ができる。

 

【論文情報】

タイトル:“Two distinct conformations in 34 FliF subunits generate three different symmetries within the flagellar MS-ring”

著者名:Norihiro Takekawa1, Akihiro Kawamoto2,3, Mayuko Sakuma4, Takayuki Kato2,3, Seiji Kojima4, Miki Kinoshita2, Tohru Minamino2, Keiichi Namba2,5,6, Michio Homma4 and Katsumi Imada1

所属:1大阪大学大学院理学研究科、2大阪大学大学院生命機能研究科、3大阪大学蛋白質研究所、4名古屋大学大学院理学研究科、5理化学研究所放射光科学研究センター、6日本電子YOKOGUSHI協働研究所

なお、本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)、基盤研究(B)、基盤研究(C)、若手研究、特別研究員奨励費、特別推進研究、および新学術領域研究(研究領域提案型)による支援のもとに行われました。また、本研究は大阪大学、名古屋大学が共同で行ったものです。

 

 【研究代表者】

大学院理学研究科 本間 道夫 教授 

http://bunshi4.bio.nagoya-u.ac.jp/~micro_mot/micro_mot.html