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生物学

2021.03.03

細菌べん毛モーターの回転に必要な相互作用の解明 ~固定子と回転子が歯車の様にかみ合って回転力を生み出す仕組み~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の寺島 浩行 助教(現所属:長崎大学熱帯医学研究所)、小嶋 誠司 教授、本間 道夫 教授の研究グループは、細菌のべん毛モーターを回転させるために必要な、固定子-回転子間の相互作用ネットワークの仕組みを世界で初めて明らかにしました。細菌べん毛は、秒速数百回転することが可能なナノサイズ回転モーターです。ビブリオ菌のべん毛モーターに至っては、最高速で秒速1700回転することができます。モーター構造は、細胞膜上に作られる固定子1)と回転子2)と呼ばれるタンパク質複合体から成り立っています。そして、固定子と回転子が相互作用することによって回転力が発生すると考えられています。しかし、分子レベルでの相互作用の実態については、十分に明らかではありませんでした。今回、研究グループは、部位特異的光架橋法3)とシステインジスルフィド架橋法4)を組み合わせた網羅的な相互作用解析を行い、固定子タンパク質PomAと回転子タンパク質FliGの間の相互作用ペアを明らかにし、固定子と回転子が歯車のように噛み合い回転するモデル(べん毛モーター回転ギアモデル)を提案しました。これにより、生物の持つ分子回転モーターの回転メカニズムの解明と、生物機械の応用に結びつく研究として期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of Bacteriology」に2021年2月22日にオンライン公開されました。

 

【ポイント】

・  細菌の運動器官(べん毛)を回転させるために必要な固定子-回転子間の相互作用ネットワークを、部位特異的光架橋法とシステインジスルフィド架橋法を組み合わせて解明。

・  固定子タンパク質PomAの複数のアミノ酸残基が、回転子タンパク質FliGと架橋形成する。

・  PomA K89残基とFliG R281残基、FliG D288残基が架橋形成ペアである。これを構造情報に重ね、固定子と回転子が歯車のように噛み合い回転するモデルを提案した。

・  塩基性アミノ酸PomA K89と塩基性アミノ酸FliG R281の間の静電的反発と、塩基性アミノ酸PomA K89と酸性アミノ酸FliG D288の間の静電的誘引がモーターの回転を引き起こすと推測された。生体回転モーターの作動機序の解明のみならず、将来の機能的な人工ナノマシンや分子デバイスの設計にもつながる成果である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

1)  固定子: べん毛モーターを回転させるタンパク質複合体。PomB二量体の周りをPomA五量体が囲む構造をしている。PomAの細胞質領域が回転子と相互作用し、回転力が発生する。

2)  回転子: べん毛モーターの内、回転する部分。FliG/FliM/FliNから形成された巨大なカップ構造を形成する。回転子が回転すると、つながっているべん毛線維へと回転が伝播する。

3)  部位特異的光架橋法: タンパク質の特定の狙った位置に、紫外線反応性の非天然アミノ酸pBPAを導入し、極近傍に存在するタンパク質と架橋形成させ、相互作用相手を同定する方法。ここで言う架橋とは、化学反応によってタンパク質ポリペプチド鎖間をつなげることをいう。

4)  システインジスルフィド架橋法: タンパク質の特定の位置2か所にチオール基を持つシステイン残基を導入し、銅などの酸化剤を用いてチオール基間に共有結合を形成させ、相互作用残基を同定する方法。チオール基は、水素化された硫黄末端基であり、酸化によってジスルフィドを形成する。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Bacteriology

論文タイトル:Site-directed crosslinking identifies the stator-rotor interaction surfaces in a hybrid bacterial flagellar motor

著者:Hiroyuki Terashima*, Seiji Kojima, Michio Homma

所属:名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻

*現所属:長崎大学熱帯医学研究所

DOI:10.1128/JB.00016-21                                     

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 本間 道夫 教授

http://bunshi4.bio.nagoya-u.ac.jp/~micro_mot/micro_mot.html