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生物学

2021.03.26

砂糖のとりすぎによる脂質代謝異常(脂肪肝、高脂血症)は腸内環境の変化が鍵であった

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の小田 裕昭 准教授らを中心とする研究グループは、砂糖(ショ糖、スクロース)1)のとりすぎによって起こるメタボリックシンドローム2)へつながる脂質代謝異常(脂肪肝3)、高中性脂肪血症4))が腸内環境の変化によるものであることを見出しました。これまでメタボリックシンドロームは、食べ過ぎ、特に油のとりすぎが原因として考えられてきましたが、最近になって、砂糖(ショ糖や異性化糖5)などのフルクトース6)を含む糖)が大きな原因であるとわかってきました。そのため、WHO(世界保健機関)は1日の砂糖の摂取を摂取エネルギーの5%に抑えるように勧告を出しました(2015年)。またそれを実現させるために政策変更も求めています。しかし、砂糖や脂質代謝異常(脂肪肝、高中性脂肪血症)は古くから知られていましたが、これまで十分にメカニズムが明らかになっていませんでした。教科書には半世紀前に考えられたメカニズムが書かれており、私達はこれまで、このメカニズムに肝臓や小腸の体内時計7)の変化が重要であることを報告してきました。

本研究では、砂糖のとりすぎにより大腸の腸内細菌叢8)が変化することを見出しました。そして、腸内細菌を抗生物質で処理することにより、この腸内細菌叢の変化が脂肪肝や高中性脂肪血症の原因であることを突き止めました。これは、これまでのメカニズムの大きな変更になる新パラダイム9,10)の提案であると考えられます。

この研究成果は、砂糖のとりすぎによるメタボリックシンドロームの予防において、腸内環境を整える方法により予防できる可能性を示すとともに、他の食品成分によって予防できる可能性を示すものです。

本研究成果は、2021年3月8日付のオランダ科学雑誌「The Journal of Nutritional Biochemistry」オンライン版に掲載されました。


【ポイント】

・砂糖のとりすぎにより起こる脂質代謝異常のメカニズムを明らかにした。

・砂糖のとりすぎは腸内細菌叢に変化をもたらすことがわかった。

・砂糖のとりすぎによる腸内細菌叢の変化が脂肪肝や高中性脂肪血症の原因であることがわかった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)砂糖(ショ糖、スクロース):スクロースはグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合した二糖類。甘味料一般を指すものではない。

注2)メタボリックシンドローム:生活習慣病の前段階の未病状態であり、インスリン抵抗性を基盤とした状態を指す。食事や運動に気を使うことによって、可逆的に戻ることが期待される状態である。一般に太っていることを指す言葉のように使われることがあるが、必ずしも正しくない。日本人の場合、太っていない人でもインスリン抵抗性がありメタボリックシンドロームと評価される場合がある。そのような人は、痩せていても糖尿病になることがある。

注3)脂肪肝:肝臓に中性脂肪がたまっている状態を指す。脂肪肝が進行すると、肝線維症や肝硬変、肝がんへ移行する可能性がある。アルコール摂取しない場合、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれ、その原因はメタボリックシンドロームと関連が深いと考えられている。

注4)高中性脂肪血症:血中に中性脂肪がたまる高脂血症の一つで、これまでは高コレステロール血症が動脈硬化症の危険因子と考えられてきたが、最近高中性脂肪血症も危険因子と考えられるようになった。

注5)異性化糖:果糖ブトウ糖液糖とも呼ばれる。デンプンを加水分解してブドウ糖液に変え、およそ半分を果糖に異性化したものであり、スクロースと同様な甘味があり、安価で供給されているため、ジュースなどの甘味料として多く利用されている。

注6)フルクトース:グルコースと同じ組成式をもつため、自身のエネルギーは同じであるが、グルコースと代謝が異なるため、メタボリックシンドロームや脂肪肝、高中性脂肪血症、高尿酸血症、肥満などを引き起こすことが知られている。本文にもあるように、未だそのメカニズムは不明である。

注7)体内時計:私達の体の中には、およそ24時間の時計がある。体内時計は、時計遺伝子によって回っている。時計遺伝子の発見は、2017年にノーベル賞を受けた。生物時計が概日時計と言われるように、おおよその時計であるため、脳では光によって調整されている。最近の研究で、代謝に関わるお腹の時計は、食事のタイミングによって調整されていることがわかってきた。

注8)腸内細菌叢:私達の消化管には多くの微生物が住んでいる。その中でも大腸には大量の細菌が住んでおり、腸内の細菌全体を指す言葉である。

注9)パラダイム:特定の時代の特定の科学分野における支配的なものの考え方、見方を言う。

注10)新パラダイム:本研究における新パラダイム。ショ糖やフルクトースによる脂質代謝異常の主要な臓器が消化管であり、消化管と腸内細菌叢を介して肝臓に情報が伝わり脂質代謝異常を引き起こすという考え方。旧パラダイムを参照。

 

【論文情報】

雑誌名:The Journal of Nutritional Biochemistry

論文タイトル:High sucrose diet-induced dysbiosis of gut microbiota promotes fatty liver and hyperlipidemia in rats

著者:Shumin Sun1,2, Yuki Araki1, Fumiaki Hanzawa3, Miki Umeki4, Takaaki Kojima5, Naomichi Nishimura6, Saiko Ikeda3, Satoshi Mochizuki7 and Hiroaki Oda1

1 名古屋大学大学院生命農学研究科栄養生化学 2 浙江大学医学部   3 名古屋学芸大学管理栄養学部 4 別府大学食物栄養科学部

5 名古屋大学大学院生命農学研究科分子生物工学 6 静岡大学農学部   7 大分大学教育学部

DOI:10.1016/j.jnutbio.2021.108621

 

 【研究代表者】

大学院生命農学研究科 小田 裕昭 准教授

http://nutrition2.agr.nagoya-u.ac.jp/