糸状菌(カビ)は菌糸と呼ばれる管状の細胞から成り、宿主細胞などの基質に、菌糸の先端を侵入させて生長・分岐し、バイオマスの分解や動植物への寄生・共生、発酵などに関わります。その際、自身の直径よりも狭い空間に入るには、その形態を変化させる必要があります。しかしこれまで、数µmという小さな菌糸細胞の可変性(あるいは柔軟性)を解析することは困難でした。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の佐藤 良勝 特任准教授らは、本研究において、菌糸直径より細い、幅1 µmの流路を持つマイクロ流体デバイスを作製し、そこに菌糸を生育させて菌糸細胞の可変性を解析しました。顕微鏡によるライブイメージング解析の結果、糸状菌の中には、細い流路を通過して生長を続けるものと、そうではないものがあることが分かりました。そこで、異なる系統の7種の糸状菌について、同様の解析を行ったところ、細い流路を通過できるかどうかは、菌糸幅や系統分類上の近さではなく、菌糸の生長速度と相関があることを発見しました。つまり、生長の遅い菌糸は、可変性が高く細胞の形を変えて流路を通過できるのに対して、生長の速い菌糸は、細胞の膨圧が高いために可変性が低く、細い流路を通過しにくくなります。このことは、生長が速いと、新たな栄養源や空間を素早く占領できる一方、微小空間への侵入が難しくなるという、細胞形態の可変性と生長速度の間のトレードオフ関係を示唆しています。
糸状菌が微小空間に菌糸を侵入させて生長するメカニズムを理解することにより、糸状菌が関わる生態学的役割、病原性、バイオテクノロジー、カビ汚染の制御などにつながると期待できます。
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【題 名】Trade-off between plasticity and velocity in mycelial growth
(菌糸生長における細胞の可変性と生長速度のトレードオフ)
【著者名】Sayumi Fukuda1†, Riho Yamamoto1†, Naoki Yanagisawa2‡, Naoki Takaya1, Yoshikatsu Sato2, Meritxell Riquelme3, Norio Takeshita1*
1 Microbiology Research Center for Sustainability (MiCS), Faculty of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba, 305-8572, Japan
2 Institute of Transformative Bio-Molecules (WPI-ITbM), Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, Aichi, 464-8601, Japan
3 Centro de Investigación Científica y de Educación Superior de Ensenada, CICESE, Baja California, 22860, Mexico †Equal contribution, ‡Current position, Department of Mechanical and Process Engineering (D-MAVT), ETH Zurich, Säumerstrasse 4, CH-8803 Rüschlikon, Switzerland
*Corresponding author
【掲載誌】mBio
【掲載日】2021年3月16日