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医歯薬学

2021.03.19

尿中のタンパク質で筋萎縮性側索硬化症の進行を予測

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野 雅央 教授、山田 晋一郎 医員(筆頭研究者)らの研究グループは、神経難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)について、尿中チチン※1 が病気の進行度や予後※2 の予測に利用できる生物学的指標(バイオマーカー)※3 であることを明らかにしました。
ALS は、運動ニューロン※4が変性する(弱る)ために全身の筋肉が萎縮して筋力が低下し、嚥下障害※5、呼吸筋麻痺などが急速に進行する難治性疾患です。ALS に対しては現在 2 種類の薬が薬事承認されていますが、いずれもその効果は十分ではありません。ALS の治療法開発が難航している背景には、治療のターゲットとすべき分子が十分同定されていないことや、重症
度や進行速度を反映するバイオマーカーも未確立であることがあげられています。勝野教授らの研究チームは、筋肉の成分であるチチンというタンパク質に着目し、ALS では尿中のチチンが増加していること、尿中チチンを測ることで他の神経疾患と ALS とを見分けることができること、ALS の運動機能の指標である ALSFRS-R※6 のスコアとも相関していることを見出しました。さらに、尿中チチンが高い方は、低い方に比べて、病気の進行が速いことがわかりました。これらのことから、尿中チチンが ALS の診断や重症度の把握、予後予測に役立つバイオマーカーであることが明らかになりました。
本研究の結果から、尿中のチチンは ALS の診療や臨床試験などで活用可能なバイオマーカーであると考えられます。英国科学雑誌「Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry」(2021 年 3 月 19 日付の電子版)に掲載されました。


【ポイント】

○ ALS は運動ニューロンが障害される予後不良な神経難病である。
○ ALS の病気の進行度や薬剤の治療効果などを反映する指標(バイオマーカー)は未確立である。
○ 本研究により、ALS 患者の尿中チチンを測定することで、進行の度合いを把握し、予後を予測できることが明らかになった。
○ 尿中のチチンは ALS の診療や臨床試験に応用可能なバイオマーカーである。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 チチン:チチン(titin)は、横紋筋(骨格筋および心筋)を構成するタンパク質の一つで、生体内に存在する最も大きなタンパク質としても知られています。力を入れると筋肉は縮みますが、力を抜いた時にそれをもとに戻す役割を担っているのがチチンです。筋肉の損傷が起こると分解され、断片化された一部が尿中に Titin N-fragment として検出されます。
※2 予後:余命や病気による身体の不自由など、病気の進行にともなう最終的な結果を指します。個々の患者の予後を推定することは、治療やケアの計画を立てる上で重要です。経過の速い患者と遅い患者をあらかじめ見分けることができれば、治療法の開発にも役立ちます。
※3 バイオマーカー:特定の病気の診断や、個々の患者についての重症度、治療に対する効果を反映するような客観的な指標のこと。一般的には、血液や尿の蛋白質、MRI などの画像指標などがバイオマーカーとして使われています。
※4 運動ニューロン(運動神経): 骨格筋を支配する神経細胞であり、大脳から脊髄へ信号を伝える上位運動ニューロンと、脊髄から筋肉へ信号を伝える下位運動ニューロンの 2 種類に大別されます。ALS ではこの 2 種類の運動ニューロンがともに変性します。
※5 嚥下障害:食物や水分を口の中に取り込んでから飲み込むまでの過程が、正常に機能しなくなった状態のこと。嚥下障害があると、むせて十分食事がしにくく、栄養不足(低栄養)や誤嚥性肺炎などに陥るリスクが高まります。
※6 ALSFRS-R(ALS Functional Rating Scale-Revised):ALS 患者の日常生活を把握するために作成され、言語機能や嚥下機能、四肢体幹機能、呼吸機能などのパートで構成される合計 48 点の評価尺度(通知表のように身体の機能を点数化したもの)。点数が低いほど機能が低下していることが示唆され、多くの治験や臨床研究において日常生活活動度の変化を表す項目として使用されています。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry
論文タイトル:Ratio of urinary N-terminal titin fragment to urinary creatinine is a novel biomarker for amyotrophic lateral sclerosis
著者:Shinichiro Yamada1, Atsushi Hashizume1, Yasuhiro Hijikata1, Daisuke Ito1, Yoshiyuki Kishimoto1, Madoka Iida1, Haruki Koike1, Akihiro Hirakawa2, and Masahisa Katsuno1
所属:1Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Department of Clinical Biostatistics, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo, Japan
DOI:http://dx.doi.org/10.1136/jnnp-2020-324615
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_Neuro_Psy_210319en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 勝野 雅央 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/neurology/