TOP   >   生物学   >   記事詳細

生物学

2021.04.19

仙台湾のヒラメは割と個人主義だった ~脊椎骨コラーゲンの分析でヒラメの「生活履歴の個体差」が明らかに~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の加藤 義和 研究員は、国立研究開発法人水産研究・教育機構 冨樫 博幸 主任研究員、栗田 豊 副部長、大学共同利用機関法人人間文化研究機構 総合地球環境学研究所(以下、「地球研」という)の陀 安一郎 教授らとともに、仙台湾に生息するヒラメの脊椎骨椎体注1)について、コラーゲンに含まれる炭素・窒素の安定同位体比注2)を分析し、仙台湾のヒラメには、成長に伴って波打ち際から沖合へ移動するタイミングや、湾内での生息場所の好みが異なるという、生活履歴が異なる2つの集団が存在することを個体単位で確認しました。

和食、洋食を問わず、高級食材としての需要が高いヒラメ。近年では養殖も増えていますが、自然界での成長の過程は完全に解明されていません。

本研究により、ヒラメの生活環の一端が解明され、ヒラメという資源の保護や活用にも有用な知見が明らかになっただけでなく、脊椎骨椎体の安定同位体分析という手法がさまざまな魚種の生活史や行動、集団の構造などの解明に役立つ見通しが得られました。

本研究成果は、2021年4月5日付の米国科学雑誌「Marine Biology」にオンライン掲載されました。
 

【ポイント】

・仙台湾に生息するヒラメを対象とし、成長に応じた移動や餌の変化が個体によってどのように異なるのかを、個体単位で調査した。

・脊椎骨椎体の同位体解析により、仙台湾の北東部には、幼魚から成魚に至るまでの長い期間を通じて、湾内の他の地点とは生活履歴の異なる集団が存在することを発見した。

・脊椎骨椎体の安定同位体分析という手法がさまざまな魚種の生活史や行動、集団の構造などの解明に役立つ見通しが得られた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)脊椎骨椎体:

魚類の脊椎骨の中には、つづみ状に向かい合った二つの円錐形の椎体がある。椎体は、円錐の頂点から外縁部に向けて、樹木の年輪のような同心円状の構造を持っている。椎体は、魚の成長に伴って、年輪が一つずつ増えていくようにして伸長していくため、稚魚期(円錐の頂点)から死亡時(円錐の最外縁部)に至るまでの履歴が、時系列に沿って椎体の中に記録されている。

注2)安定同位体比:

炭素、窒素、水素、酸素、硫黄などの元素には、それぞれ陽子数が等しく中性子数の異なる同位体が存在する。これらのうち、時間の経過に伴って崩壊し、別の原子に変わるものを放射性同位体、変化しないものを安定同位体と呼ぶ。

 

【論文情報】

雑誌名・巻号:Marine Biology (2021) 168: 57

タイトル:Segmental isotope analysis of the vertebral centrum reveals the spatiotemporal population structure of adult Japanese flounder Paralichthys olivaceus in Sendai Bay, Japan

(分割した脊椎骨椎体の同位体分析が明らかにした仙台湾ヒラメ個体群の時空間構造)

著者名:

Yoshikazu Kato1,2*, Hiroyuki Togashi3, Yutaka Kurita3, Yutaka Osada1,3, Yosuke Amano3,4, Chikage Yoshimizu1, Hiromitsu Kamauchi1,5, Ichiro Tayasu1

*責任著者

所属機関:1 総合地球環境学研究所 2 名古屋大学 環境学研究科

3 水産研究・教育機構 4 福島県水産海洋研究センター 5 無所属

URL:https://doi.org/10.1007/s00227-021-03868-1

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 加藤 義和 研究員

http://has.env.nagoya-u.ac.jp/pcl/