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生物学

2021.04.15

花粉化石により地層の年代測定に成功!新型セルソーターが拓いた革新的手法 -マイクロ流体工学の視点から古生物学に貢献-

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の笠井 宥佑 博士課程大学院生(研究当時)、名古屋大学宇宙地球環境研究所のChristian Leipe(クリスティアンライペ)客員准教授、九州大学大学院工学研究院の佐久間臣耶准教授(前職:名古屋大学大学院工学研究科助教)、東京大学大学院工学系研究科の新井史人教授(前職:名古屋大学大学院工学研究科教授)らの研究グループは、マイクロ流路中で「輸送渦」を時空間的に制御することにより、大型の微粒子を高速で分取することに成功し、花粉の化石を用いて確実性の高い年代測定を実現しました。

セルソーター注1は、医学や生物学の分野において重要な基盤技術である一方で、100マイクロメートル注2を超える微粒子を高速で分取することは困難とされてきました。本研究では、マイクロ流体チップ注3中で、局所的かつ高速に流体を制御し、時空間的に発達する「輸送渦」を生成することで、1秒間に最大5,000回という駆動速度で高速に大きな微粒子を分取することに成功しました。この新規の大型微粒子の操作技術を用いて、花粉の化石を用いた高精度な年代の測定を実現しました。湖底の地層には大小様々な花粉の化石が含まれており、泥の中から花粉の化石を選択的に分取し、花粉に含まれる炭素14同位体注4をAMS法注5で測定した結果、約1.5万年前の標本と良好な一致を示しました。本成果により、セルソーターの地質年代学や古生物学への応用展開や、創薬・再生医療・バイオ燃料など大型細胞を取り扱う分野への新規応用が期待されます。

本研究は、2021年4月14日14時(米国東部時間)に米国のオープンアクセス科学誌「Science Advances」にオンライン版で公開されました。


【ポイント】

・マイクロ流路中で「輸送渦」の時空間的な制御により、大型微粒子の高速分取に成功しました。

・湖底下の古代の地層の中から、花粉の化石を選択的に分取し高確度な年代測定に成功しました。

・本操作技術は、創薬・再生医療・バイオ燃料など、多くの分野での貢献が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語解説】

注1)セルソーター

特定の細胞を選択的に分取する装置。微細管を流れる細胞懸濁液にレーザーを照射し、蛍光や散乱光を測定することで細胞を識別・分取する。

注2)マイクロメートル

100万分の1メートル(マイクロ:100万分の1)。例えば髪の毛の太さは60~100マイクロメートル程度。

注3)マイクロ流体チップ

微量な溶液や生体試料の混合、反応、分取、精製、検出などさまざまな化学、生物操作をミクロ化できる半導体製造技術を用いて作製したデバイス。

注4)炭素14

陽子を6つ、中性子を8つ持つ炭素の放射性同位体。炭素14の半減期が5730年であることを利用して、炭素14を測定することで年代測定が可能となる。

注5)AMS (Accelerator Mass Spectrometry) 法
加速器質量分析法。加速器を用いて試料に含まれる極微量の放射性同位体と安定同位体の比を測定する分析法であり、炭素14の存在比の測定に用いられる。

 

【論文情報】

タイトル: Breakthrough in purification of fossil pollen for dating of sediments

by a new large-particle on-chip sorter

著者名: Yusuke Kasai, Christian Leipe, Makoto Saito, Hiroyuki Kitagawa, Stefan Lauterbach, Achim Brauer,

Pavel Tarasov, Tomasz Goslar, Fumihito Arai, Shinya Sakuma

掲載誌: Science Advances

DOI: 10.1126/sciadv.abe7327 

URL:https://advances.sciencemag.org/content/7/16/eabe7327

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 Christian Leipe 准教授

https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/study07.html