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生物学

2021.05.11

遺伝性疾患や癌の原因遺伝子 「コヒーシン」の新たな機能を発見! --ヒト遺伝性疾患の病理解明につながることを期待--

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の西山 朋子 准教授と坂田 凌大 大学院生らの研究グループは、真核生物1)で姉妹染色分体間接着2)に必須の因子「コヒーシン」3)の機能が、DNA複製の進行にも必須であることを突き止めました。

私たちヒトを含む真核生物の細胞では、複製されたゲノム情報が正しく分配されるために、染色分体間に接着が形成されることが必須です。今回、研究グループは、この染色分体間接着に必須の因子「コヒーシン」が正常に機能しなくなると、ゲノムの複製が正しく行われなくなることを発見しました。この発見は、「染色体の複製」と「分配」という、真核生物にとって生存に不可欠の2つの事象が、お互いに密接に関係していることを示すものであり、今後、染色体均等分配のしくみや、ヒト遺伝性疾患メカニズムを解明する上で重要な手がかりとなることが期待されます。

この研究成果は、令和3年4月 27日付(日本時間4月 28日0時)米国科学雑誌「Cell Reports」に掲載されました。

本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業 基盤研究B(18H02372)、学術変革領域(A)「ゲノムモダリティ」(20H05937)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)さきがけ研究(JPMJPR19K4)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・染色分体間接着に必須の因子「コヒーシン」の構造変化が、正常なDNA複製の進行に必要である。

・この構造変化は正確な染色体分配や、ゲノム高次構造形成にも重要である。

 

◆詳細(プレスリリース)はこちら

 

【用語説明】

1)    真核生物:

我々ヒトをはじめとした動物、植物、菌類、原生生物などを含む、細胞核をもつ生物の一群。DNAは細胞核内に収納されている。

 2)    姉妹染色分体間接着:

細胞の自己複製にかかせないゲノムDNAの複製は、真核細胞の間期核内で起こる。ゲノムDNAが複製された結果、できあがった一対のコピーを「姉妹染色分体」と呼ぶ。姉妹染色分体同士は、複製と同時につなぎ合わされ(接着され)、この接着を「姉妹染色分体間接着」という。この接着がないと、細胞は分裂に際してゲノムDNAのコピーを娘細胞に均等に分配することができず、その結果、細胞死を引き起こす。

 3)    コヒーシン:

姉妹染色分体間接着を担う、リング状のタンパク質複合体。4つの異なる因子から成るリング状の複合体で、このリング構造が、染色分体間をつなぎとめる機能に必須であることが分かっている。細胞分裂に際して、Scc1サブユニットが切断されることでリングが開き、染色体が分配される。

 

【論文情報】 

雑誌名:Cell Reports

論文タイトル:Opening of cohesin’s SMC ring is essential for timely DNA replication and DNA loop formation.

著者:坂田凌大(名古屋大学大学院理学研究科)

丹羽叶真(名古屋大学大学院理学研究科)

Diego Ugarte La Torre(京都大学大学院理学研究科)

Chenyang Gu(京都大学大学院理学研究科)

田原絵理(名古屋大学大学院理学研究科)

高田彰二(京都大学大学院理学研究科)

西山朋子(名古屋大学大学院理学研究科)

DOI: 10.1016/j.celrep.2021.108999  

URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124721003132?via%3Dihub

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 西山 朋子 准教授

https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~nishiyama/Nishiyamalab-home.html