北海道大学大学院理学研究院の佐藤長緒准教授,東京大学大学院総合文化研究科の阿部光知教授,京都大学大学院理学研究科の伊藤照悟助教,国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の木羽隆敏准教授,埼玉大学大学院理工学研究科の高木 優教授らの研究グループは,ワシントン大学の今泉貴登教授らとの国際共同研究で,植物が生育環境中の窒素量に応じて開花のタイミングを調節する仕組みを明らかにしました。
植物にとって窒素はもっとも必要量が多い栄養素で,窒素が欠乏すると植物は大きく成長できません。ただし,窒素を過剰に与えると,葉の成長が促進される一方で,花が咲きにくくなることが古くから知られており,農作物の施肥管理においても重要な点になっています。しかし,こうした窒素に応答した開花制御の分子機構は長年謎のままでした。
本研究では,モデル植物シロイヌナズナを材料に,窒素量に応じた植物の開花制御に,転写因子*1 FBH4タンパク質の働きが重要であることを発見しました。そして,FBH4タンパク質の機能を調節する方法として,リン酸化修飾*2が鍵となることを見つけました。通常,植物体内でFBH4タンパク質は多くのリン酸化修飾を受けていますが,この度合いが窒素欠乏条件で育てた植物体内では顕著に減少していました。このFBH4タンパク質のリン酸化修飾が,まさに開花のブレーキとなっていて,このブレーキが外れると「花咲かホルモン」である「フロリゲン*3」が増加し,開花が誘導されることがわかりました。
本研究で得られた知見は,土壌中の窒素栄養環境に左右されずに成長と開花のバランスを保ち,安定した収量を得られる作物品種の開発に役立つことが期待されます。
本研究成果は,2021年5月7日(金)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌に掲載されました。
・植物は生育環境中の窒素量に応じて,開花のタイミングを調節していることを実証。
・FBH4タンパク質のリン酸化修飾が,窒素量に応じて開花を調節するスイッチであることを解明。
・土壌栄養環境に左右されずに安定した収量を得られる作物品種の開発に期待。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
*1 転写因子 … 遺伝子の転写制御に関わるタンパク質。生命の設計図として機能するDNAに結合し,遺伝情報の読み取り,機能発現を制御する。
*2 リン酸化修飾 … タンパク質の翻訳後機能制御の一つ。タンパク質内の特定のアミノ酸にリン酸基が付与されることで,タンパク質機能を制御するシグナルとしての役割を果たす。
*3 フロリゲン … 花咲かホルモンとして知られる分子で,植物の開花を誘導する。シロイヌナズナにおいては,FTというタンパク質がその分子実態である。
論文名 Low nitrogen conditions accelerate flowering by modulating the phosphorylation state of FLOWERING BHLH 4 in Arabidopsis(低窒素条件ではFBH4のリン酸化状態の調節を介してシロイヌナズナの花成が誘導される)
著者名 眞木美帆1,青山翔紀1,久保晃生1,陸 宇1,佐藤靖武1,伊藤照悟2,阿部光知3,光田展隆4,高木 優5,木羽隆敏6,中神弘史7,Filip Rolland8,山口淳二9,今泉貴登10,†,佐藤長緒9,†(1北海道大学大学院生命科学院,2京都大学大学院理学研究科,3東京大学大学院総合文化研究科,4国立研究開発法人産業技術総合研究所,5埼玉大学大学院理工学研究科,6名古屋大学大学院生命農学研究科,7マックス・プランク植物育種学研究所,8ルーベン・カトリック大学,9北海道大学大学院理学研究院,10ワシントン大学,†共同責任著者)
雑誌名 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)
DOI:10.1073/pnas.2022942118
U R L : https://www.pnas.org/content/118/19/e2022942118
公表日 2021年5月7日(金)(オンライン公開)