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医歯薬学

2021.05.19

従来の細胞内ドメインよりも強力に細胞内シグナルを伝える新規の細胞内ドメインを用いた CAR-T 細胞を開発! 〜CAR-T 細胞療法の効果増強を期待〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学分野の Jakrawadee Julamanee 大学院生(筆頭著者)、寺倉精太郎講師(責任著者)、清井仁教授らのグループは、B 細胞シグナル誘導を担う、CD79A※1 および CD40※2 の細胞内ドメイン※3 を用いた新規複合細胞内ドメインを開発しました。この細胞内ドメインは抗原刺激後に核内移行シグナルである NF-κB※4をより強く誘導することで、キメラ抗原受容体(CAR)T 細胞※5の機能を向上させることに成功しました。

昨今 CD19※6 を標的とした CD19CAR を発現するように遺伝子を改変した CD19CAR-T 細胞が、再発・難治 B 細胞性悪性腫瘍で有望な結果を示すことが明らかとなり、臨床応用されました。現在用いられている CAR-T 細胞では 4-1BB※7 または CD28※8 の細胞内ドメインを組み込んだ第 2 世代のCD19CAR-T 細胞を用いて、画期的な臨床的な奏功がみられ、米国食品医薬品局(FDA)は CD19CART 細胞を再発/難治性の B-ALL※9および B-NHL※10患者の治療に承認しています。しかし、高い初期奏効率にも関わらず、多くの患者が最終的には再発しており、CAR-T 細胞の増殖性や生体内での長期持続性が低いことが、不完全な奏効や早期再発と関連していると考えられます。CAR-T 細胞の増殖と持続性を高めるために、研究グループは、CD79A/CD40 シグナル伝達ドメインを組み込んだ新しい第 3 世代の CD19CAR(CD19.79a.40z CAR)を作成しました。CD19.79a.40z CAR-T 細胞は強力な CAR-T 細胞の刺激後増殖を示し、in vitro※11および in vivo※12の B 細胞リンパ腫モデルの両方でがん細胞の増殖を抑制することができました。このグループは、B 細胞シグナル伝達部位を CAR構造に組み込むことで、CAR-T 細胞の増殖と持続性が高まることを確認しました。CD79A/CD40 細胞内ドメインは、B 細胞リンパ腫の寛解を持続させ、最終的には治療成績を向上させる可能性があります。

本研究成果は、国際科学雑誌「Molecular Therapy」(電子版)に 2021 年 5 月 1 日に掲載されました。


【ポイント】

○CD79A/CD40 の新規細胞内ドメインは,核内移行シグナルである NF-κB を従来の細胞内ドメインよりも強力に誘導し,CD19CAR-T 細胞の機能を向上させました。
○CD79A/CD40 細胞内ドメインを組み込んだ CD19CAR-T は、強力な CAR-T 細胞の刺激後増殖を示し、Raji(リンパ腫)を接種したマウスにおいて抗腫瘍効果を向上させました。
○CD79A/CD40 エンドドメインは、現在使用されている CD28 や 4-1BB エンドドメインよりも優れた生存率を示す可能性があります。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 CD79A: Bリンパ球全般に発現する細胞表面タンパクであり、B細胞レセプター(BCR)複合体の一部を形成している。
※2 CD40: CD40 は B 細胞に加えて各種抗原提示細胞に発現しており、CD40 リガンドと結合して B 細胞に活性化シグナルを伝達する。
※3 細胞内ドメイン: 細胞表面レセプターの細胞内部分。細胞内蛋白をリン酸化するなどの反応を起こすことによって、細胞内にシグナルを伝達する。
※4 NF-κB: 細胞内シグナルタンパクの一つで、多くの細胞種において細胞の生存および細胞増殖を高める。
※5 キメラ抗原受容体(CAR) T 細胞: 抗体等の細胞外ドメインとシグナル伝達のための細胞内ドメインからなる人工受容体をキメラ抗原受容体と呼び、これを T リンパ球等の免疫細胞に遺伝子導入して臨床応用されている。CAR-T を遺伝子導入して作成した T リンパ球を CAR-T 細胞と呼び、近年臨床応用されている。
※6 CD19: B リンパ球全般に発現する細胞表面タンパクであり、CD19 を標的とした CART 細胞はすでに臨床応用されています。
※7 4-1BB: 活性化した T リンパ球に発現する分子であり、この細胞内ドメインはすでに臨床応用されている CAR-T 細胞に組み込まれている。
※8 CD28: T 細胞が完全に活性化するために必要なシグナルの一つを伝える分子であり、この細胞内ドメインはすでに臨床応用されている CAR-T 細胞に組み込まれている。
※9 B-ALL: B 細胞性急性リンパ性白血病。
※10 B-NHL: B 細胞性非ホジキンリンパ腫。
※11 In vitro: 試験管内で行う(実験) のこと。
※12 In vivo: 生体内で行う(実験)(主としてマウスを用いる) のこと。


【論文情報】

掲雑誌名:Molecular Therapy
論文タイトル:Composite CD79A/CD40 costimulatory endodomain enhances CD19CAR-T cell proliferation and survival
著者:Jakrawadee Julamanee1,2, Seitaro Terakura1, Koji Umemura1, Yoshitaka Adachi1, Kotaro Miyao1, Shingo Okuno1, Erina Takagi1
, Toshiyasu Sakai1, Daisuke Koyama1, Tatsunori Goto1, Ryo Hanajiri1, Michael Hudecek3, Peter Steinberger4, Judith Leitner4, Tetsuya Nishida1, Makoto Murata1, and Hitoshi Kiyoi1
所属:1 Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

2 Hematology Unit, Division of Internal Medicine, Faculty of Medicine, Prince of Songkla University, Songkhla, Thailand
3 Medizinische Klinik und Poliklinik II, Universitätsklinikum Würzburg, Würzburg, Germany

4 Division for Immune Receptors and T Cell Activation, Institute of Immunology, Medical University of Vienna, Vienna, Austria
DOI:10.1016/j.ymthe.2021.04.038
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/mol_the_210501en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 清井 仁 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hematology/