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生物学

2021.05.12

多くの生物の核を明るく輝かせる 蛍光色素Kakshine(カクシャイン)を開発

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の宇野 何岸(うの かきし)博士(現:マックス・プランク研究所 研究員)、杉本 渚(すぎもと なぎさ)技術スタッフ、佐藤 良勝(さとう よしかつ)特任准教授らの研究グループは、多くの生物種で利用可能なDNA染色蛍光色素(Kakshine)を開発しました。 

DNAは生物の体の設計図と言われ、子孫に受け継がれる遺伝情報の本体です。真核生物において、DNAは細胞内の核に存在する他、細胞小器官(オルガネラ)のミトコンドリアと葉緑体にも独自のDNAが存在します。一方、生命科学分野では、DNAを蛍光検出する試薬は電気泳動、PCRなど日常的な分子生物学的技術として使用される他、細胞周期における染色体動態や細胞小器官の複製などのライブイメージング解析においても欠かせない技術になっています。DNA染色蛍光色素に求められる性質として、①高いDNA選択性があること、②光毒性の少ない可視光を利用できること、➂適用できる生物種が広いこと、などが挙られます。しかし、これまでこれらの性質すべてを満たす色素はありませんでした。研究グループが開発したDNA染色蛍光色素(Kakshine)はこれら3つの性質を満たすことに加え、④二光子励起顕微鏡注1)による深部イメージングが適用可能であること、⑤核内のDNAおよびオルガネラのDNAの超解像STEDライブイメージングに適用できること、がわかりました。生命科学分野の様々な研究への応用や先端顕微鏡技術の普及への貢献が期待できます。

研究成果は、2021年5月11日(火)午後6時(日本時間)英国国科学雑誌「Nature Communications」に掲載されます。

この研究は、科学技術振興機構、日本学術振興会科学研究費補助金、文部科学省科学研究費助成事業・新学術領域研究などの支援のもと行われました。

 

【ポイント】

・ Kakshineは従来のDNA染色蛍光色素よりも高いDNA選択性をもつことを示しました。

・ 青色から近赤外まで(500 nm – 700 nm)の幅広い波長で使用できるKakshineシリーズの合成に成功しました。

・Kakshineは、複数種の動物培養細胞や植物細胞の核内のDNA(核-DNA)、ミトコンドリ アDNA(mt-DNA)、葉緑体DNA(chl-DNA)を生きたまま染色できることを示しました。

・核-DNA、mt-DNA, chl-DNAは濃度により染め分けが可能であることを示しました。

・Kakshineは、先端顕微鏡技術の適用性にも優れ、二光子励起顕微鏡による深部イメージング、STED顕微鏡注2)による超解像イメージングに適用可能であることを示しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)二光子励起顕微鏡:1つの蛍光分子が1つの光子を吸収して発した蛍光を検出する通常の蛍光顕微鏡観察に対し、二光子励起顕微鏡では1つの蛍光分子が2つの光子を同時吸収して励起されて発する蛍光を検出します。通常の蛍光観察で使用する波長の約2倍程度長い近赤外領域の波長を使用するため、生体深部イメージングに用いられています。

 注2)STED顕微鏡:光学顕微鏡の理論上の限界を超えた空間分解能で観察できる顕微鏡を総称して超解像顕微鏡といい、STED顕微鏡は、誘導放出抑制(STED: stimulated emission depletion)を利用した超解像顕微鏡法の1つ。誘導放出とは、励起状態にある分子に対して外部から光子を加えると、入射光と同じ位相、周波数、進行方向の光が放出される現象であり、レーザー(LASER: Light Amplification Stimulated Emission of Radiation)の光増幅にも応用されています。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

論文タイトル: N-aryl pyrido cyanine derivatives are nuclear and organelle DNA markers for two-photon and super-resolution imaging

著 者:Kakishi Uno, Nagisa Sugimoto, Yoshikatsu Sato(宇野 何岸、杉本 渚、佐藤 良勝)

論文公開日:  2021年5月11日

DOI: 10.1038/s41467-021-23019-w

URL: https://www.nature.com/articles/s41467-021-23019-w

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所 佐藤 良勝 特任准教授

https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/liveimagingcenter/