国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院教育発達科学研究科の五十嵐 祐 准教授は、高知工科大学情報学群の玉井颯一助教とともに、職場での社員の解雇など、集団から特定の人物を排斥する時の基準と、排斥するという決定を下したときの心の痛みを実験的に検討し、集団にわずかな利益しかもたらさない人物を排斥する時には心が痛みにくいことを明らかにしました。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、世界各地で大規模な人員削減が行われています。社員の解雇や政治家の更迭といった「排斥」を実行するとき、排斥された人だけではなく、排斥する人も心を痛めているとされています。それでは、人が心を痛めながらも他者を排斥できるのはなぜなのでしょうか。
本研究では、他者を排斥することに心を痛めるはずの人間が、なぜ排斥を行ってしまうのかを検討し、集団にもたらす利益量の多寡が、排斥を実行するかどうかの一つの基準であり、集団のために排斥する場合、心の痛みが抑制されている可能性を示しました。
こうした研究が進展することにより、解雇や更迭といった多くの社会で採用されている「集団からメンバーを追放する決まり」がどのような心の仕組みで成立しているのかを明らかにすることができると考えられます。
本研究成果は、2021年5月2日付学術雑誌『European Journal of Social Psychology』に掲載されました。
本研究は、科学研究費補助金(16J07018)の支援のもとで行われたものです。
・職場での社員の解雇など、集団から特定の人物を排斥する時の基準と、排斥するという決定を下したときの心の痛みを実験的に検討した。
・ある人物が、自分(実験参加者)にどのくらいの利益をもたらすのか、そして、集団全体にどのくらいの利益をもたらすのかが、その人物を排斥するかどうかを決めるための手がかりとなる。
・集団にもたらす利益が少ない人物を排斥した時ほど、心は痛みにくい。
・人は、「集団のため」になるならば、特定の人物が排斥されても仕方がないと考え、心の痛みを抑え込んでいる可能性がある。
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雑誌名:European Journal of Social Psychology
論文タイトル:Odd man out for everyone: The justification of ostracism to maximize the whole group’s benefits
著者:玉井 颯一(高知工科大学情報学群 助教)
五十嵐 祐(名古屋大学大学院教育発達科学研究科 准教授)
DOI:10.1002/ejsp.2725
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ejsp.2725