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医歯薬学

2021.05.31

指定難病「特発性肺線維症」の疾患進行の運命を握る線維芽細胞を世界で初めて同定 ~特発性肺線維症克服へ向けての新展開~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学分野の橋本直純准教授、分子病理学・腫瘍病理学分野の榎本篤教授、名古屋大学医学部附属病院呼吸器内科の阪本考司病院助教、中原義夫病院助教の研究グループは、米国 Yale 大学呼吸器内科学分野 Kaminski 教授、米国 Baylor 医科大学呼吸器内科学分野 Rosas 教授との国際共同研究によって、本邦において指定難病※1 である「特発性肺線維症(IPF)」の疾患進行の運命を握る線維芽細胞を世界で初めて同定しました。
IPF は肺の線維化のために呼吸不全に至る難病で、5 年生存率は他臓器のがん種よりも不良です。IPF に特徴的な病理所見である“線維芽細胞巣(せんいがさいぼうそう)”は,線維芽細胞が増殖・集積する線維化形成の最前線とされていて、“線維芽細胞巣”の形成機序の解明は肺線維症研究において最重要課題でありました。榎本教授は既報で新規分子 meflin (メフリン)が間葉系幹細胞※2 のマーカーであることを報告していました。
橋本准教授らの研究グループは Kaminski 教授・Rosas 教授との国際共同研究の中で、meflin 分子が肺線維芽細胞特異的に発現し、meflin 陽性線維芽細胞は IPF 肺の“線維芽細胞巣”に限局して集簇することを見出しました。さらに、マウス肺線維症モデルにおいて meflin 陽性線維芽細胞は抗線維化作用を示し、meflin が欠損した線維芽細胞は線維化誘導刺激に過剰反応することを確認しました。
また、可溶性 meflin 分子は線維化活動性に応じて肺胞洗浄液中に検出されました。これらの新知見は IPF の特徴的所見である“線維芽細胞巣”の形成を紐解く上で極めて重要であり、今後 meflin を治療標的とした従来と異なる作用機序を介して線維化を抑制する新たな治療法の開発や IPF の疾患活動性を予測する可溶性 meflin 測定法の確立を目指す上で重要な基盤情報となりました。
本研究成果は、欧州呼吸器学会誌「European Respiratory Journal」(2021 年 5 月 28 日付)に掲載されました。


【ポイント】

○ meflin 分子は肺線維芽細胞に特異的に発現して,IPF の特徴的所見である“線維芽細胞巣”の形成に重要であることがわかりました。
○ meflin 陽性線維芽細胞は線維化を防ぐ機能を持つことがわかり、今後 meflin を治療標的とする新奇抗線維化療法につながる治療開発が期待されます。
○ 線維化の活動性がある時に肺胞洗浄液中に可溶性 meflin 分子が検出できることから、IPF の疾患活動性を予測する可溶性 meflin 測定法の確立が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 指定難病:「難病」とは、「発病の機構が明らかでなく,かつ,治療方法が確立していない希少な疾病であって,当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるものをいう。」と定義されていて、難病法で指定されている疾患を指します。特発性肺線維症は指定難病「特発性間質性肺炎」(指定難病 85)に含まれています。
※2 間葉系幹細胞:線維芽細胞をはじめとする間葉系細胞に分化する細胞です。

 

【論文情報】

掲雑誌名:European Respiratory Journal
論文タイトル:Fibroblasts positive for meflin have anti-fibrotic property in pulmonary fibrosis.
著者:Yoshio Nakahara,a* Naozumi Hashimoto, a *# Koji Sakamoto, a * Atsushi Enomoto,b Taylor S. Adams,c Toyoharu Yokoi,d Norihito Omote,a,c Sergio Poli,e Akira Ando,a Keiko Wakahara,a Atsushi Suzuki,a Masahide Inoue,a Akitoshi Hara,b,f Yasuyuki Mizutani,b,g Kazuyoshi Imaizumi,h Tsutomu Kawabe,iIvan O. Rosas,jMasahide Takahashi,b Naftali Kaminski,c Yoshinori Hasegawak
#: Corresponding author
DOI:10.1183/13993003.03397-2020
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Euro_Res_Jou_210528en.pdf
所属:a: Department of Respiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
b: Department of Pathology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
c: Section of Pulmonary, Critical Care and Sleep Medicine, Yale School of Medicine, New Haven, CT, United States
d: Department of Pathology, Tsushima City Hospital, Japan
e: Department of Medicine, Mount Sinai Medical Center, Miami Beach, FL, USA
f: Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
g: Department of Gastroenterology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
h: Department of Respiratory Medicine and Allergy, Fujita Health University, Toyoake, Japan
i: Department of Pathophysiological Laboratory Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
j: Department of Medicine, Section of Pulmonary, Critical Care and Sleep Medicine, Baylor College
of Medicine, Houston, TX, USA
k: National Hospital Organization Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan
*: These authors contributed equally to this work.

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 長谷川 好規

http://www.med-nagoya-respmed.jp/