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工学

2021.06.02

高校生の研究が出発点! 室温で磁石になる材料「強磁性半導体」を発見! ~より高速&省電力な電子機器開発の可能性~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の寺崎 一郎 教授らの研究グループは、パラジウム酸鉛に鉄とリチウムを少量、共置換することによって400℃以上の高温から磁石になる材料「強磁性半導体セラミックス注1)」を発見しました。
磁石の性質と半導体の性質をあわせ持つ「強磁性半導体セラミックス」は、次世代半導体技術であるスピントロニクス注2)の基盤材料として注目されています。これまでも室温で動作する「強磁性半導体セラミックス」の報告はありましたが、そのほとんどは極薄膜試料での報告であり、磁石としての反応が小さく、それが析出した不純物によるものではないかという疑問が報じられ、未だに議論が続いています。
今回発見したこの材料は、グラム単位のセラミックス試料であり、室温で永久磁石に吸い付きます。少量の鉄だけを置換した試料は、ほとんど非磁性であり、少量のリチウムをさらに置換したとたん強磁性注3)が発現します。これは従来知られている理論では説明できない、全く新しいタイプの「強磁性半導体セラミックス」の可能性を示しています。
この強磁性のメカニズムを明らかにすることによって、より省電力でより高速な電子機器が開発され、持続可能な開発目標の達成への貢献が期待されます。

本研究成果は、2021年5月26日付米国応用物理系の国際学術雑誌「Journal of Applied Physics」に掲載されました。

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援のもとで行われたものであり、名古屋大学が展開していたプログラム「名大MIRAI GSC」の一環で、寺崎研究室(機能性物質物性研究室)で研究を行った2人の高校生注4)の成果が出発点になりました。
 

【ポイント】

・ 400℃以上の高温から強磁性を示す「強磁性半導体セラミックス」を発見した。
・PbPd0.95Fe0.05O2はほぼ磁性を示さず、非磁性イオンであるLiを2%置換すると高温から強磁性が発現する。この物質は、従来の理論では説明できないほど高い強磁性転移温度を持ち、強磁性メカニズムは未知である。

・今回開発された「強磁性半導体セラミックス」は、グラム単位のセラミックスでの作成が可能で、永久磁石にくっつくという巨視的で明白な応答を示す。
・本研究は、より省電力でより高速な電子機器が開発され、持続可能な開発目標の達成への貢献が期待される。

 

 ◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)強磁性半導体セラミックス(PbPd0.93Fe0.05Li0.02O2):

半導体の中に鉄やコバルト、マンガンなどの磁性をもつ原子(磁性元素)を混入させた物質で、ある温度以下で強磁性が生じる半導体のこと。半導体は本来、磁石の性質を持たないが、強磁性半導体では半導体と磁性体の特性が互いに関連した特異な現象が観測されており、スピントロニクス材料として注目されている。

注2)スピントロニクス:
電子が持つ性質である「電荷」は、電子工学(エレクトロニクス)として利用されてきた。一方、電子の持つもう一つの性質「スピン」は、それが集団で揃った状態である強磁性として、磁気工学(マグネティクス)に用いられてきた。1990年代に微細加工技術(ナノテクノロジー)が大きく進展し、一つの電子の「スピン」を制御して利用する分野が構築された。

注3)強磁性:
物質の中の電子が持つスピンが、互いに相互作用して、全部が並行に揃うことによって強い磁化が生じ、試料の外部に磁場を発生させることができる状態。日常使われる永久磁石は強磁性状態の一つ。

注4)名古屋大学が展開していたプログラム「名大MIRAI GSC」の一環で、寺崎研究室(機能性物質物性研究室)で研究を行った2人の高校生:

「名大MIRAI GSC」(http://www.iar.nagoya-u.ac.jp/miraigsc/)は、国立研究開発法人科学技術振興機構が展開する「次世代人材育成事業グローバルサイエンスキャンパス(https://www.jst.go.jp/cpse/gsc/)の一つで、大学が、将来グローバルに活躍しうる傑出した科学技術人材を育成することを目的として、地域で卓越した意欲・能力を有する高校生等を募集・選抜し、国際的な活動を含む高度で体系的な、理数教育プログラムの開発・実施等を行うことを支援するもの。

東海地方を中心にした理科が得意な高校生200名が名古屋大学に集まり、数回の講義とレポートによって選抜された50人が2人ずつペアになって25の研究室に配属される。彼らは夏休み2週間で最先端の研究を行う。寺崎研究室は、2018年度の担当研究室として当該高校生2人を受け入れた。

 

【論文情報】

雑誌名: Journal of Applied Physics

論文タイトル:
Unconventional high-temperature ferromagnetic semiconductor PbPd1−x−yFeyLixO2  

著者:Y. He,D. Sato, K. Misawa, D. Nishihara, A. Kimura,

A. Nakano (中埜彰俊*), H. Taniguchi (谷口博基*),

 I. Terasaki (寺崎一郎*)    

*名古屋大学

DOI: 10.1063/5.0051283

URL: https://doi.org/10.1063/5.0051283

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 寺崎 一郎 教授 

http://vlab-nu.jp