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工学

2021.06.24

世界初!光の力で原子スケールの構造を可視化 ―ナノ粒子が持つ光触媒機能の画像化に成功―

鳥本司教授(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学工学研究科)は、菅原康弘教授(大阪大学大学院工学研究科)、石原一教授(大阪府立大学工学研究科/大阪大学大学院基礎工学研究科)らとともに、光照射により発生する力(光圧)を計る顕微鏡(光誘起力顕微鏡)を用いて、人工合成されたナノ粒子の近接場光を1ナノメートル(10億分の1メートル)以下の分解能で画像化することに世界で初めて成功しました。

半導体や金属のナノ粒子は光触媒、太陽電池などに用いる光機能材料として注目されています。光を用いる走査型顕微鏡(走査型近接場光学顕微鏡※6)は、このような試料の光学特性を反映した画像が得られる利点がありますが、原子スケールの分解能までは得られませんでした。今回、光を照射した走査型顕微鏡のプローブ先端とナノ材料の間に働く力(光圧)を高感度に読み取る新しいタイプの顕微鏡(光誘起力顕微鏡)により、桁違いの高分解能を実現することが出来ました。

研究チームは高性能な光触媒材料として設計された複合ナノ粒子を複数の波長の光を用いて観測し、ナノ粒子が設計通りの化学的性質を持つことを原子分解能に迫る光圧画像で確認しました。超高真空中での観測を実現し、かつ光照射による熱の影響を除去する独自の工夫を加えたことが高分解能の鍵となり、光圧の3次元ベクトル像を取得することにも成功しました。機能性ナノ材料の設計・評価のための新しい基盤技術として期待される成果です。

本研究成果は、英国科学誌『Nature Communications』に6月23日18時(日本時間)にオンライン掲載されました。

 

 【ポイント】

・ 光照射によって働く試料とプローブ間の力(光圧※1)を計測する「光誘起力顕微鏡※2」で、高性能な光触媒※3機能を持つナノ微粒子の近接場光※4を画像化することに成功。

・ 照射光による熱の影響を独自技術で排除し、世界で初めて1ナノメートル以下の分解能※5を達成。光圧の3次元ベクトルの画像化にも初めて成功。

・機能性ナノ材料の設計・評価のための新しい基盤技術として期待。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

 

【用語説明】

※1 光圧

物質に光があたると光は運動量を持つために物質に力が働く。また光電場の勾配があるときにも、光電場とそれにより物質に誘起される分極間の相互作用のため物質に力が働く。これらを光圧と呼ぶ。近接場光内で物質に働く力も光圧の一種である。

※2 光誘起力顕微鏡

金属基板上の試料と金属コートされた走査型顕微鏡のプローブチップが光で照射されると、基板とチップのギャップ内で強い光電場が発生し、ギャップ内の試料近傍の近接場光とチップに誘起される双極子との相互作用のため両者の間に力(光圧)が働く。この力を高感度に測定することで試料の近接場光イメージを得る走査型の顕微鏡。

※3 光触媒

光吸収した半導体中に生じる励起電子あるいは正孔が引き起こす化学反応。太陽光を用いた水の完全分解による水素と酸素の製造など、サステイナブルな技術として注目されている。

※4 近接場光

物質表面や光の波長より小さな物質に光が照射されたとき、その周辺の、波長より差し渡しが小さい空間内に、伝播しない光の染み出しが発生する。照射される光と同じ振動数を持ち局在している振動電場。

※5 分解能

測定装置などが、どれくらいまで細かい構造を識別できるかの性能を表す指標。1ナノメートル以下の分解能とは1ナノメートル以下の距離しか離れていない構造が識別できる性能を表す。

※6 走査型近接場光学顕微鏡

 

光を照射された試料の表面を鋭敏なプローブで走査し、近接場光をプローブ先端で散乱させるなどして遠方での光信号を読み取って、試料の表面形状を最小10nm程度の分解能で計測する顕微鏡。

 

【論文情報】

タイトル:“Optical Force Mapping at the Single-Nanometre Scale”

著者名:J. Yamanishi, H. Yamane, Y. Naitoh, Y. J. Li, N. Yokoshi, T. Kameyama,

S. Koyama, T. Torimoto, H. Ishihara, and Y. Sugawara

DOI: 10.1038/s41467-021-24136-2

なお、本研究は、文部科学省科学研究費新学術研究領域研究「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」(領域代表 大阪府立大学 石原一)の支援の下に行われました。