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医歯薬学

2021.06.24

自己免疫性の筋炎や間質性肺炎患者における血清中自己抗体の新規測定法の開発に成功 ~患者の持つ抗 OJ 抗体はリジル tRNA 合成酵素とイソロイシル tRNA 合成酵素を認識する~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 皮膚科学の室 慶直准教授(同大医学部附属病院 診療教授)、秋山真志教授を中心とする研究グループは、産業医科大学 産業保健学部 成人・老年看護学講座の佐藤 実教授らと連携して、分子生物学的手法により合成したリジル tRNA 合成酵素とイソロイシル tRNA合成酵素を用いた ELISA という免疫学的手法によって、自己免疫疾患患者血清中の抗 OJ 抗体(OJは最初に発見された患者さんの頭文字と言われています)が簡便に測定できることを明らかにしました。
多発性筋炎/皮膚筋炎のような自己免疫疾患や一部の間質性肺炎においては血液中に、患者さん自身の持つタンパク質に対する抗体(自己抗体)が見つかることが特徴的です。その中でもアミノアシル tRNA 合成酵素(ARS)(※1)という体内でタンパク質を作る際に重要な働きをする酵素に対する自己抗体が血液中に見つかる疾患は抗 ARS 抗体症候群(※2)と呼ばれ、間質性肺炎、関節炎、筋炎、皮膚症状など様々な臓器に病変を生じます。これまでに6種類の抗 ARS 抗体が、診断と予後予測において重要な自己抗体として報告されていますが、そのうちの5種類については保険診療内の採血検査で各抗体の有無を調べることができます。しかし、残りのひとつである抗 OJ 抗体については検査キットの開発が難しく、その測定は諦めざるをえませんでした。海外で市販されている検査キットの中には、抗 OJ 抗体を測定できると謳っている商品もありますが、これまで偽陽性や偽陰性の結果が殆どで、信頼できるレベルに至っていません。この抗体を確実に測定できる方法としては、煩雑で放射性物質を取り扱わなければならず、熟練者が行う必要のある免疫沈降法(※3)が唯一の方法でした。今回、研究グループは、放射性物質を用いず、熟練者でなくても簡便に抗 OJ 抗体を測定できる ELISA 法を、初めて開発しました。
この研究成果は、国際科学誌 Journal of Autoimmunity に掲載されました(2021 年 6 月 11 日付)。


【ポイント】

○抗 OJ 抗体が in vitro 転写・翻訳系により合成したリジル tRNA 合成酵素(KARS)とイソロイシル tRNA 合成酵素(IARS)と反応することを見出しました。
○KARS および IARS の合成タンパクを用いた ELISA による抗 OJ 抗体の測定結果は、これまでの免疫沈降法による測定結果と高い一致率を示しました。
○今回開発した ELISA 法によって、自己免疫疾患患者血清中の抗 OJ 抗体について、多数の検体の安全、迅速な定量的測定が可能になりました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 アミノアシル tRNA 合成酵素:ATP の存在下でアミノ酸を活性化し、tRNA の 3′末端のアデノシンにアミノ酸を結合させ、アミノアシル tRNA をつくる酵素です。この反応は、遺伝暗号の翻訳、すなわちタンパク質の合成において非常に重要な役割を持ちます。生体内の 20 種類のアミノ酸に対応して、isoleucyl-ARS、lysyl-ARS 等、それぞれ特異的な酵素が存在します。
※2 抗 ARS 抗体症候群:抗合成酵素症候群(anti-synthetase syndrome)とも呼ばれます。患者血清中にアミノアシル tRNA 合成酵素(ARS)に対する自己抗体を認め、間質性肺炎、筋炎、皮膚症状(“機械工の手”と呼ばれます)、発熱、関節炎などをきたす疾患です。皮膚筋炎や多発性筋炎の診断基準を満たす場合と満たさない場合があります。また、筋肉の病理組織が特徴的なことから、本症候群を独立した疾患概念として扱う考え方もあります。
※3 免疫沈降法:多発性筋炎・皮膚筋炎や強皮症などの膠原病患者さんの自己抗体の同定に使用される測定法の一つ。通常、放射性物質で標識した培養細胞のタンパク質や RNA と患者抗体を反応させ、その反応物質(抗原抗体複合体)をセファロースやアガロースといった担体を用いて、遠心分離して回収し、ゲル電気泳動を用いて分離、解析を行います。いわゆる自己抗体同定のゴールドスタンダード(絶対的な基準)となる方法ですが、放射性物質を扱う、時間がかかる、解析に熟練者の鑑識眼を必要とする等の難点があります。


【論文情報】

掲雑誌名:Journal of Autoimmunity
論文タイトル:Immune recognition of lysyl-tRNA synthetase and isoleucyl-tRNA synthetase by anti-OJ antibody-positive sera
著者:Yoshinao Muroa,*, Yasuhiko Yamanob, Ken Yoshidac, Yohsuke Otoc, Kimiko Nakajimad, Teruyuki Mitsumae, Shiori Kikuchif, Akihiro Matsumaeg, Mariko Ogawa-Momoharaa, Takuya Takeichia, Yasuhiro Kondohb, Masao Katayamag, Yasuyuki Todorokih, Yoshiya Tanakah, Minoru Satohi, Masashi Akiyamaa
所属: aDepartment of Dermatology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Aichi 466-8550, Japan
bDepartment of Respiratory Medicine and Allergy, Tosei General Hospital, Seto 489-8642, Japan
cDivision of Rheumatology, Department of Internal Medicine, The Jikei University School of Medicine, Tokyo 105-8461, Japan
dDepartment of Dermatology, Kochi Medical School, Kochi University, Kochi 783-8505, Japan
eDepartment of Dermatology, Ichinomiya Municipal Hospital, Ichinomiya 491-8558, Japan
fDivision of Neurology, First Department of Internal Medicine, Asahikawa Medical University, Asahikawa 078-8510, Japan
gDepartment of Internal Medicine, Nagoya Medical Center, National Hospital Organization, Nagoya 460-0001, Japan
hThe First Department of Internal Medicine, University of Occupational and Environmental Health, Kitakyushu 807-8555, Japan
iDepartment of Clinical Nursing, University of Occupational and Environmental Health, Kitakyushu 807-8555, Japan
* Corresponding author
DOI:10.1016/j.jaut.2021.102680
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_Aut_210611en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 室 慶直 准教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/derma/