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生物学

2021.06.18

「のり」が「はさみ」を連れてくる 〜植物細胞のユニークな「微小管」形成の仕組みを解明〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の八木 慎宜 博士、中村 匡良 特任講師らは、奈良先端科学技術大学院大学の橋本 隆 教授、カーネギー研究所(米国)のデイビッド エアハルト  博士、東京大学の松永 幸大 教授らとの共同研究で、動物や酵母では「微小管」を「微小管形成中心」注1)につなぎ留める「Msd1-Wdr8複合体」が、「微小管形成中心」を持たない植物では独自の機能を持つことを明らかにしました。

細胞骨格の一つである「微小管」は、細胞内でポリマー状の構造をしており、その配向パターンを変化させることで、染色体の分離や細胞極性の制御、細胞の形態形成など、生物の生存に不可欠な活動に寄与しています。植物では、高度に組織化された「表層微小管」注2)の配向パターンが、成長過程や環境シグナルに応じてダイナミックに変化し、変動する細胞内外の環境に適応しています。植物の「表層微小管」のパターン形成には、「微小管」の形成と切断が重要であると考えられています。特に、「微小管形成開始点部位」を「微小管」切断タンパク質「カタニン(日本刀から命名)」が特異的かつ効率的に切断することにより、新たに形成された「娘微小管」を細胞表層に遊離し、「微小管」同士の相互作用を促すことが、「微小管」のパターン形成に必須です。しかしながら、「微小管形成部位」に「カタニン」がリクルートされる分子機構は長らく不明でした。

本研究により、「新規微小管」をその生成部位にとどめておく『のり』分子が、「新規微小管」を基部で切断する『はさみ』分子を連れてくるという、相反する作用を持つというユニークな生命現象が明らかになりました。この2つの機能により、「微小管」切断が成長過程や環境シグナルに応じて高度に制御可能になります。この成果は、植物の形作りを制御する「微小管」の配向パターンの形成メカニズムの解明に繋がる重要な発見です。今後、この知見を発展させ、細胞骨格ネットワークを人為的に制御することで、細胞形態を改変し、環境応答効率を向上させる技術の開発が期待されます。

本研究成果は、2021年6月17日18時(日本時間)付英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
 

【ポイント】

・動植物で保存されている細胞因子が、植物細胞では保存機能に加えて新たな機能を獲得している。

・「微小管」を細胞内特定箇所につなぎ留める「のり」分子が、植物細胞ではその箇所を切断する「はさみ」分子を連れてくる。

・「のり」と「はさみ」の共同作業により細胞内環境に適応した微小管パターンの形成が可能となる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語解説】

注1)微小管形成中心:
動物細胞の中心体のように、微小管を形成する中心となる細胞小器官。

注2)表層微小管:

植物間期細胞の細胞膜内側にネットワーク状に存在する微小管構造。細胞壁成分セルロース繊維の沈着を介して植物細胞のかたちをつくり上げる。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

論文タイトル:An anchoring complex recruits katanin for microtubule severing at the plant cortical nucleation sites

(微小管切断因子カタニンを表層微小管形成部位にリクルートする微小管安定化複合体の発見)

著者: Noriyoshi Yagi, Takehide Kato, Sachihiro Matsunaga, David W. Ehrhardt, Masayoshi Nakamura, Takashi Hashimoto

(八木 慎宜、加藤 壮英、松永 幸大、デイビッド W. エアハルト、中村 匡良、橋本 隆)

論文公開日:2021年6月17日

DOI: 10.1038/s41467-021-24067-y  

URL: https://www.nature.com/articles/s41467-021-24067-y

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所 中村 匡良 特任講師

https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/frommer-nakamura/home_jp.html