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医歯薬学

2021.07.05

がん放射線治療の副作用軽減に向け前進 ~アミノ酸の重粒子線誘発DNA損傷の保護効果~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の余語 克紀 助教らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構、東海大学、広島大学、北里大学との共同研究で、重粒子線注1)照射によって生じるDNA損傷に対して、アミノ酸の保護効果を明らかにしました。

重粒子線治療は、頭頸部がんなどに集中して高い線量を投与できる優れたがん治療法です。しかし、唾液が出にくくなるなど辛い副作用が生じることがあります。マウスに「D体メチオニン」を飲ませると、この副作用が軽減されることが分かっていますが、他のアミノ酸の効果は不明です。重粒子線誘発のDNA損傷に対する保護効果を指標として、「D体メチオニン」以外にも有望なアミノ酸注2)がないかどうか探索しました。

本研究では、重粒子線照射によって生じたDNA損傷をDNA電気泳動法注3)で高感度に調べ、アミノ酸による保護効果の違いを調べました。その結果、DNA損傷に対して、メチオニン以外の他の代表的なアミノ酸では、「システイン」と「トリプトファン」がメチオニンと同等かそれ以上の放射線保護効果を示し、有望な放射線保護剤の候補と考えられることが分かりました。また重粒子線誘発のプラスミドDNA損傷に対するアミノ酸の保護効果が、OHラジカルの消去作用で説明できることが示唆されました。

本研究成果は、アミノ酸の作用機序の解明に貢献し、辛い副作用を軽減する安全ながん放射線治療用薬剤の開発に寄与すると期待されます。また、身近で安全なアミノ酸を、広くがん放射線治療の副作用の軽減に適用できる可能性を示すことができたため、さらなる応用が期待されます。

この研究成果は、2021年5月27日付「Radiation Research」オンライン版に掲載されました。
          

【ポイント】

・放射線治療の一種である重粒子線治療時に生じる唾液低下の副作用軽減に、「D体メチオニン」が有望であるため、他にも有望なアミノ酸がないかどうか調べた。

・重粒子線照射によって生じるDNA損傷をDNA電気泳動法で高感度に調べ、代表的な5種類のアミノ酸による保護効果の違いを調べた。

・メチオニン以外の他の代表的なアミノ酸では、「システイン」と「トリプトファン」がメチオニンと同等かそれ以上の放射線保護効果を示し、有望な放射線保護剤の候補と考えられる。

・DNA一本鎖損傷(SSB)、および二本鎖損傷(DSB)の生成量とアミノ酸のラジカル消去能力の間に相関が見られた。これにより、重粒子線誘発のプラスミドDNA損傷に対するアミノ酸の保護効果が、OHラジカルの消去作用で説明できることを示唆している。

・身近なアミノ酸を、広くがん放射線治療の副作用の軽減に適用できる可能性を示すことができたため、さらなる応用が期待される。

 

 ◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)重粒子線:高エネルギーの炭素イオン線であり、がん放射線治療法に使われる放射線の一種。物理的に集中して高い線量を投与できることと、生物学的な治療効果が高いことから、優れたがん治療法である。

注2)アミノ酸:体内で働くタンパク質の構成成分であり、ヒトでは20種類ある。本研究では、代表的なアミノ酸として、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)、システイン(Cys)、バリン(Val)、アラニン(Ala)の5種類の効果を調べた。

注3)DNA電気泳動法:DNAをアガロースなどの寒天の網目の中に通して、電気の力で引っ張り、大きさによって簡単にふるい分ける方法。本実験で用いたDNAは、「プラスミドDNA」という小さなリング状のDNAであり、小さくよじれた形(損傷なし)から、開いた環状(一本鎖損傷)、直線状(二本鎖損傷)への変化を簡単に高感度に検出できる。

 

【論文情報】

雑誌名:Radiation Research (米国科学専門誌)

論文タイトル:Protective Effects of Amino Acids on Plasmid DNA Damage Induced by Therapeutic Carbon Ions

著者:Katsunori Yogo(本学関係教員:余語克紀), Chieko Murayama,Ryoichi Hirayama, Ken-ichiro Matsumoto, Ikuo Nakanishi,Hiromichi Ishiyama,Hiroshi Yasuda

DOI:10.1667/RADE-21-00033.1   

URL:https://bioone.org/journals/radiation-research/volume-196/issue-2/RADE-21-00033.1/Protective-Effects-of-Amino-Acids-on-Plasmid-DNA-Damage-Induced/10.1667/RADE-21-00033.1.full