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化学

2021.07.16

肺線維症の分子標的の探索法開発および同定に成功 ~架橋修飾反応が関わる特発性肺線維症の発症機構の解明~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院創薬科学研究科の辰川 英樹 助教、竹内 大修 大学院生、人見 清隆 教授らの研究グループは、同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の桑田 啓子 センターチーフらとの共同研究により、肺線維症の発症原因の一つとされる「タンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ」により架橋修飾注1)される標的タンパク質群の同定解析手法を開発し、「特発性肺線維症(IPF)」の病態発症メカニズムの一端を明らかにしました。

IPFは、肺胞にできる傷の修復が繰り返される過程で、コラーゲンなどのタンパク質が過剰に増加して間質が厚くなり、呼吸機能が低下する疾患です。予後が悪い難治性疾患ですが、病態増悪に関わる詳細な分子メカニズムは解明されておらず、有効な治療法も確立されていません。

研究グループは、IPFの発症原因に関わるタンパク質間に共有結合を作る架橋酵素に着目し、架橋修飾される標的基質タンパク質を空間的・網羅的に同定する新手法を開発して、病態形成に伴い架橋される126種類の基質因子を見出しました。

研究成果は、病態増悪に関わるタンパク質の架橋修飾により誘導される病態分子ネットワークの分子基盤を提供し、IPFの新たな治療標的を対象とした創薬シーズの開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、2021年7月15日22時(日本時間)付米国の呼吸器雑誌「American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・架橋酵素の欠損マウスでは肺線維化が顕著に抑制されることから、病態形成の原因となる架橋修飾された標的基質因子を同定するための新手法を開発した。

・病態増悪に伴い架橋酵素が活性化する領域において、架橋修飾される126個の基質タンパク質群を同定し、シグナル伝達の経路解析やタンパク質相互解析により、架橋修飾反応の下流で誘導される、小胞体ストレス注2)や脂質代謝関連のシグナル伝達などの新たな病態分子機構を見出した。

・架橋修飾により誘導されるシグナル伝達経路は、特発性肺線維症の患者での遺伝子の活性化経路と類似性があったことから、基質因子群の架橋修飾反応の制御は、未だ有効な治療法がない肺線維症の新たな薬剤シーズの開発に繋がることが期待される。

 

 ◆詳細(プレスリリース)はこちら

【用語説明】

注1)架橋修飾:

タンパク質のグルタミン残基とリジン残基にイソペプチド結合(共有結合)が形成される翻訳後修飾反応。

注2)小胞体ストレス:

タンパク質が正常な高次構造に折りたたまれなかったタンパク質(変性タンパク質)が小胞体に蓄積し、細胞に悪影響が生じる状態。

 

 【論文情報】

雑誌名:American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology

論文タイトル:Spatially resolved identification of transglutaminase substrates

by proteomics in pulmonary fibrosis

(肺線維化における架橋酵素トランスグルタミナーゼの局在依存的な標

的基質のプロテオミクスによる同定解析)

著者:名古屋大学大学院創薬科学研究科

竹内 大修、辰川 英樹、篠田 祥希、人見 清隆

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所

桑田 啓子

帝人ファーマ株式会社

長谷 直樹、高橋 広、西賀 美幸

DOI: 10.1165/rcmb.2021-0012OC

 

【研究代表者】

大学院創薬科学研究科 人見 清隆 教授

http://www.ps.nagoya-u.ac.jp/lab_pages/biochemistry/newpage2.html