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医歯薬学

2021.07.21

CD63 は IRE-IRP を介して鉄によって制御されており、細胞外小胞によるフェリチン分泌に重要である

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科・生体反応病理学の簗取いずみ(やなとり いずみ)助教、豊國 伸哉(とよくに しんや)教授、Des R Richardson(デス・リチャードソン)客員教授よりなる研究グループは、細胞外小胞※1(エクソソームやマイクロベジクル)のマーカーである CD63※2の発現が Iron-regulatory protein (IRP)-Iron-responsive element (IRE)※3システムを介した鉄により制御されており、細胞外小胞によるフェリチン※4分泌に重要であることを発見しました。血液検査の血清フェリチン値は体内の鉄貯蔵の指標として使用されていますが、フェリチン遺伝子には分泌シグナルは存在せず、フェリチンがどのように分泌されているのかはこれまで謎でした。今回、フェリチンの細胞外への分泌が細胞外小胞によることが明らかとなり、さらにフェリチンを分泌するための細胞外小胞のマーカーであり、細胞外小胞の分泌過程に関わる CD63 遺伝子が、他の鉄代謝遺伝子と同様の転写後調節により翻訳時の制御を受けることがわかりました。また、鉄負荷後に分泌される細胞外小胞内のフェリチンには鉄が格納されていることを示しました。今後、種々の疾患における鉄代謝の理解に貢献することが期待されます。
本研究結果は科学誌「Blood」(2021 年 7 月 15 日電子版) に掲載されました。


【ポイント】

○ CD63 は細胞外小胞の分泌に関わることが知られていたが、CD63 タンパク質の翻訳は IREIRP システムによる転写後制御を受けることが明らかになった。
○ 鉄の負荷により CD63 陽性の細胞外小胞が分泌され、その中には鉄を格納したフェリチンが入っている。
○ フェリチンの細胞からの分泌機構が分子レベルで明らかになった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 細胞外小胞 : 細胞から放出される核を持たない(複製できない)脂質二重膜で囲まれた粒子”が細胞外小胞と定義されている。細胞外小胞は産生機構の違いから ①エクソソーム、②マイクロベシクル、③アポトーシス小胞に分類されている。
*2 CD63 : CD は Cluster Differentiation であり、膜タンパク質の登録に使われる略称である。CD63 は LAMP‐3(Lysosomal-associated membrane protein 3)としても知られる、テトラスパニンファミリーに属する30~60kDa の膜タンパク質である。細胞外小胞の膜に多く含まれるため、細胞外小胞のマーカーや収集手段として使用されている。
*3 IRE-IRP システム: Iron-responsive element (IRE)と Iron-regulatory protein (IRP)によるシステムである。鉄代謝に関わるタンパク質の制御に関しては、遺伝子転写レベルのみならず、転写後においても制御が存在することが知られている。すなわち、遺伝子のメッセンジャーRNA の翻訳配列の前あるいは後ろに IRE [5’-CAG(U/A)GN-3’] と呼ばれる特定の配列が存在し、同部に鉄欠乏のセンサータンパク質である IRP1/2 が結合することで、翻訳を阻害したり、促進したりしている。
*4 フェリチン : 細菌を含むほぼすべての生物において、すべての細胞でつくられている鉄貯蔵のための球状タンパク質である。1 分子に 4,000 程度の 3 価鉄イオンを貯蔵できる。重鎖あるいは軽鎖からなる 24 サブユニットから構成されている。血液などの体液中へ分泌されていることが知られて、特に血清フェリチンは鉄貯蔵の程度のマーカーとして使用される。しかしながら、これまでその分泌機構は不明であった。


【論文情報】

掲雑誌名:Blood
論文タイトル:CD63 is Regulated by Iron via the IRE-IRP System and is Important for Ferritin Secretion by Extracellular Vesicles
著者:Izumi Yanatoria, Des R. Richardsona,b, Herschel S. Dheknec, Shinya Toyokunia,d, Fumio Kishie
所属:a Department of Pathology and Biological Responses, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan
b Centre for Cancer Cell Biology and Drug Discovery, Griffith Institute for Drug Discovery, Griffith University, Nathan, Brisbane, Queensland, 4212, Australia
c Department of Biochemistry, Stanford University School of Medicine, Stanford, 94305, CA, United States
d Center for Low Temperature Plasma Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa, Nagoya 464-8603, Japan
e Kenjinkai Healthcare Corporation, Yamaguchi, 757-0001, Japan
DOI:10.1182/blood.2021010995
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Blood_210715en.pdf

 

【研究代表者】

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/pathology/pathology1/