国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の福井 康雄 名誉教授らの研究グループは、国立天文台・アデレード大学(オーストラリア)との共同研究で、超新星注1)残骸において「宇宙線注2)」の陽子・電子成分の分離に世界で初めて成功しました。
本研究は、「ガンマ線注3)望遠鏡H.E.S.S.」の最新成果と星間ガスの解析結果とを融合し、独自の新しい解析手法を適用したものです。本研究によって超新星残骸RX J1713.7−3946(以後RXJ1713)において、「宇宙線」陽子によるガンマ線の強度が70%を占めることが明らかになり、未解明であった陽子起源ガンマ線が初めて導かれました。この成果は、宇宙線の超新星残骸による加速を決定づけたものであり、「宇宙線の起源解明」における画期的な一歩です。
宇宙において最高エネルギーを持つ粒子「宇宙線」は1912年に発見されて以来、その起源が大きな謎でした。ほぼ光速度で飛び交う「宇宙線」は、銀河系内では超新星爆発にともなって加速されるという説が有力です。最近のガンマ線観測の進展によって多くの超新星残骸でガンマ線が発生していることが分かりました。ガンマ線が「宇宙線」主成分の陽子から発生していれば、「宇宙線」の超新星起源が証明されたことになります。しかし、ガンマ線は陽子の100分の1存在する電子によってもつくられるため、陽子起源と電子起源のどちらが優勢なのか、2つの寄与の割合を測る必要がありますが、これは未解決でした。本成果によって、「宇宙線」の主成分である陽子成分を起源とするガンマ線の動かぬ証拠が得られ、銀河宇宙線が超新星爆発でつくられていることが決定的になりました。
本研究成果は、2021年7月9日付天文学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」誌に掲載されました。
・宇宙線の主成分である陽子が、超新星残骸RXJ1713において加速されているという確証が初めて得られた。
・この成果は、最新のガンマ線観測と星間陽子の精密定量を融合した新たな解析手法を用いて、陽子成分と電子成分を分離したことにより可能となった。
・今後、建設中のガンマ線望遠鏡CTA(チェレンコフ望遠鏡アレイ)によってさらに多くの超新星残骸にこの手法は適用され、宇宙線起源の研究が大きく前進すると期待される。
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注1)超新星:
大質量星の進化の最後に起こる大爆発。爆発の後に残るのが超新星残骸である。爆発の際、毎秒1000 kmから10000 kmで爆風が飛び散る。この爆風の作用でエネルギーの高い陽子などが加速され、宇宙線になるという説が有力である。
注2)宇宙線:
宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギー粒子。宇宙線の主成分は陽子、その100分の1くらいが電子であり、さらに、微量のヘリウム他の粒子(原子核)からなる。太陽の表面のガスは6000度であるが、宇宙線のエネルギーは太陽表面の粒子の6桁以上(100万電子ボルト)という大きなものである。この研究で扱っている宇宙線は、典型的に1兆(1012)電子ボルトのエネルギーを持つ。
注3)ガンマ線:
電磁波の一種であり、最も大きなエネルギーを持つ。電磁波は光子という粒でもあり、宇宙線が色々と粒子と反応することによって発生する。
雑誌名:The Astrophysical Journal(アストロフィジカルジャーナル)
論文タイトル:Pursuing the Origin of the Gamma Rays in RX J1713.7−3946 Quantifying the Hadronic and Leptonic Components
著者:福井康雄1, 佐野栄俊2, 山根悠望子1, 早川貴敬1, 井上剛志1, 立原研悟1, Gavin Rowell3, Sabrina Einecke3
1名古屋大学大学院理学研究科
2国立天文台
3アデレード大学
DOI: 10.3847/1538-4357/abff4a
URL: https://doi.org/10.3847/1538-4357/abff4a
大学院理学研究科 福井 康雄