国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学高等研究院/大学院生命農学研究科の蜂谷 卓士 YLC 助教(現:島根大学助教)、大学院生命農学研究科の榊原 均 教授、木羽 隆敏 准教授、杉浦 大輔 助教らの研究グループは、島根大学の中川 強 教授、フランスの共同研究ユニットBiochemistry & Plant Molecular Physiology (B&PMP)のゴジョン・アラン リサーチディレクター、埼玉大学の川合 真紀 教授、宮城 敦子 助教、理化学研究所環境資源科学研究センターの豊岡 公徳 上級技師らとの共同研究により、高濃度のアンモニウム塩の施肥による植物の生育阻害(アンモニウム毒性)が、プラスチド注1)型のグルタミン合成酵素注2)による過剰なアンモニウムの同化注3)によって起こることを発見しました。
ほとんどの植物種は、硝酸塩とアンモニウム塩を根から吸収して窒素栄養源に利用します。しかし最近の研究から、大気CO2濃度の上昇にともなって植物による硝酸塩の利用効率が低下することがわかってきました。このため、将来の高CO2環境における窒素栄養源としてアンモニウム塩が注目されていますが、高濃度のアンモニウム塩の施肥はしばしば植物の生育阻害を招きます。この現象は「アンモニウム毒性」として古くから知られていましたが、原因は未解明でした。
本研究成果により、「アンモニウム毒性」の原因の一つが明らかになりました。高濃度のアンモニウム塩の施肥下でも健全に生育する作物(将来の高CO2環境で役立つ作物)の開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2021年8月16日付英国科学誌「Nature Communications」オンライン版で公開されました。
本研究は、科学研究費補助金・若手研究(B) [JP17K15237]、文部科学省研究大学強化促進事業、科学技術振興機構(JST)科学技術人材育成費補助事業「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業:若手研究者スタートアップ研究費」、稲盛財団研究助成、アグロポリス財団(仏)研究助成、島根大学「若手教員に対する支援」の支援のもとで行われました。
・高濃度のアンモニウム塩の施肥による植物の成長低下(アンモニウム毒性)が、プラスチド型グルタミン合成酵素(GS2)による過剰なアンモニウムの同化によって起こることを発見した。
・GS2による過剰なアンモニウム同化にともなう酸の蓄積が、アンモニウム毒性の原因の一つであることを明らかにした。
・将来の高CO2環境で役立つ好アンモニウム作物の開発への応用が期待される。
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注1)プラスチド:
植物の細胞に見られる独自のDNAをもつ半自律的な細胞小器官。光合成などの同化や物質の貯蔵に関与する。
注2)グルタミン合成酵素:
グルタミン酸とアンモニアからグルタミンを合成する反応を触媒する酵素。窒素同化で主要な役割を果たす。シロイヌナズナには1つのプラスチド型酵素、5つの細胞質型酵素がある。
注3)同化:
エネルギーを用いて簡単な分子を複雑な分子に作り変える過程。
【論文情報】
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Excessive ammonium assimilation by plastidic glutamine synthetase causes ammonium toxicity in Arabidopsis thaliana
著者:Takushi Hachiya (元名古屋大学教員、責任著者), Jun Inaba, Mayumi Wakazaki, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Atsuko Miyagi, Maki Kawai-Yamada, Daisuke Sugiura(名古屋大学教員), Tsuyoshi Nakagawa, Takatoshi Kiba(名古屋大学教員), Alain Gojon, Hitoshi Sakakibara(名古屋大学教員)
DOI:10.1038/s41467-021-25238-7
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-021-25238-7