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国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所、名古屋大学大学院工学研究科の研究グループ(笠原 次郎 教授、松山 行一 特任教授、松岡 健准教授、川﨑 央 助教、渡部 広吾輝 助教、伊東山 登 特任助教、後藤 啓介 特任助教、石原 一輝 博士後期課程2年、ブヤコフ バレンティン 博士前期課程2年、野田 朋之 博士前期課程2年、秋元 雄希氏、菊地 弘洋氏ら)は、慶應義塾大学(松尾 亜紀子 教授)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(船木 一幸 教授、羽生 宏人 准教授、竹内 伸介 准教授、山田 和彦 准教授、荒川 聡氏、増田 純一氏、前原 健次氏、中尾 達郎氏)、国立大学法人室蘭工業大学(中田 大将 助教、内海 政春 教授)との共同研究で、デトネーション注1)エンジンの宇宙飛行実証に世界で初めて成功しました。

本研究で開発したデトネーションエンジンシステムは、観測ロケットS-520-31号機のミッション部に搭載されて、2021年7月27日午前5時30分にJAXA内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。第1段のロケット分離後、宇宙空間にて、回転デトネーションエンジン注2)、パルスデトネーションエンジン注3)が正常に作動し、画像、圧力、温度、振動、位置、姿勢データが「テレメトリ注4)」及び「展開型エアロシェルを有する再突入カプセルRATS(JAXA山田和彦准教授の研究グループが開発)」の洋上回収によって取得できました。

デトネーションエンジンは極めて高い周波数(1~100 kHz)でデトネーション波や圧縮波を発生させることにより反応速度を格段に高めることで、ロケットエンジンを革新的に軽量化し、また、推力を容易に生成することで高性能化します。本宇宙飛行実証実験の成功によって、デトネーションエンジンは、深宇宙探査用キックモーター、ロケットの初段・2段エンジン等としての実用化に大きく近づくことになります。

本研究の成果は、飛行データの詳細解析後、学術論文誌にて公開予定です。

本研究は、2014~2021年度JAXA宇宙科学研究所宇宙工学委員会戦略的開発研究(工学)、2014~2016年度NEDOエネルギー・環境新技術先導研究プログラム、2019~2023年度日本学術振興会科学研究費補助金特別推進研究の支援のもとで行われ、デトネーションエンジンシステムの開発は、株式会社ネッツ(中村 秀一 社長、豊永 慎治氏、原田 修氏、河野 秀文氏、山本 文孝氏、川本 昌司氏、東野 和幸氏)、明治電機工業株式会社(味田 直也氏、神藤 博実氏、堂山 一郎氏、加藤 辰哉氏)の協力のもと実施され、また、制御・計測システムには日本ナショナルインスツルメンツ株式会社の製品(CompactRIO・LabVIEW)が使用されました。

 

【ポイント】

・デトネーションエンジンの宇宙飛行実証に世界で初めて成功した。

・回転デトネーションエンジン、パルスデトネーションエンジンが、フライト環境に耐えて宇宙空間で正常作動し、それらエンジンの作動データの取得に成功した。

・本研究の結果から、デトネーションエンジンは深宇宙探査用キックモーター等、航空宇宙用エンジンとしての実用化に大きく近づいた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)デトネーション:

衝撃波にともなって、化学反応による熱開放が行われる燃焼現象。その伝播速度は、2 km/sにもなるため、可燃性のガスを高速で燃焼させることが可能。

注2)回転デトネーションエンジン:

デトネーションを連続的に伝播させることで、連続的な推力を得ることができるエ

ンジン。これまで2重円筒形状の燃焼器の底部でデトネーションを円筒の周方向に伝播させるものが多く研究されてきた。推進剤は、軸方向に噴射され、その反対方向に推力を得ることができる。

注3)パルスデトネーションエンジン:

デトネーションを間欠的に伝播させ、その燃焼後の既燃ガスを排気し、反動を得ることで、間欠的な推力を得ることができるエンジン。

注4)テレメトリ:

離れた遠隔地(観測ロケット)での測定結果を、データセンター(内之浦宇宙空間観測所の宮原テレメータセンター)へ送信すること。

 

【研究代表者】

 未来材料・システム研究所 笠原 次郎 教授

 http://www.prop.nuae.nagoya-u.ac.jp/