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化学

2021.09.07

プラスチックのように硬いシリコーン ~1億倍の弾性率変化を示すシリコーン素材の開発~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の原 光生 助教、関 隆広 教授、飯島 雄太 博士前期課程大学院生、立教大学理学部の永野 修作 教授らの研究グループは、プラスチックのように硬く、湿度の変化で 1 億倍も弾性率が変化するシリコーン注 1)素材を開発しました。
直鎖状シリコーン注 2)は、一般に室温で流動性を示し、オイルなどの柔軟材料の主成分として利用されています。しかし、本研究にて開発した直鎖状シリコーン材料は乾燥状態で合成樹脂(レジン)注 3)と同等に硬くなることを初めて見出しました。この機能性シリコーンは吸湿性注 4)を示し、湿潤状態と乾燥状態では弾性率が 1 億倍も変化します。さらに、乾燥状態ではガラスを強く接着させる機能を持ちます。これらの特性は従来の直鎖状シリコーンでは実現できないものばかりであり、本研究の成果によって材料の設計指針が広がりました。市販のモノマーを酸と混ぜるだけで簡便に合成できる点も特徴です。モノマーの原料が、豊富に存在するケイ酸塩鉱物注 5)であることからも、SDGs 注 6)への貢献も期待できます。
本研究成果は、2021 年 9 月 3 日 18 時(日本時間)付英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型)「水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成」(領域代表:加藤隆史)(JP20H05217)、基盤研究(S)(JP16H06355)、若手研究(JP18K14283)の支援を受けて行われたものです。

 

【ポイント】

・湿度に応じて弾性率が 1 億倍も変化する機能性の直鎖状シリコーン材料を開発。
・“乾燥状態ではプラスチックのような硬さ”、“ラメラ状のナノ注 7)周期構造”、“接着剤の機能発現”という、直鎖状シリコーンとして新奇な機能をもつ。
・ 広く工業的に表面改質に用いられるシランカップリング剤注 8)をモノマーとして用い、酸と混ぜるだけで簡便に合成可能。
・酸の添加量や他のモノマーの添加などで、今後様々な機能化と特性のチューニングが可能。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注 1)シリコーン:
主鎖がシロキサン結合(Si-O)の繰り返しで構成される有機ケイ素高分子の総称。学術用語ではポリシロキサンという。シロキサン結合の特徴の一つに運動性の高さが図 4. (a)湿潤状態と乾燥状態の引張せん断接着強さ、(b)スライドガラスの間にシリコーンを挟み、6 kg の重りを持ち上げている瞬間の写真。 挙げられ、炭素-炭素結合や炭素-酸素結合を主鎖とする高分子に比べて、シリコーンはやわらかい。他にも、耐熱性や耐候性、気体透過性、消泡性、剥離性、透明性、生体親和性など、シリコーンに特有の性質がある。これらの特性によって、シリコーンは身の回りの様々な柔軟製品の素材となっている。

注 2)直鎖状シリコーン:
主鎖が分岐せず、一次元に伸びたシリコーンを指す。直鎖状シリコーンは、シリコーン材料の中でも特にやわらかく、室温で流動性を示す。そのため、直鎖状シリコーンはオイルやシャンプーなどの主成分として利用されている。一方、化学架橋したシリコーンはエラストマー(シリコーンゴム)として広く利用されている。

注 3)合成樹脂:
石油原料から合成される、炭素-炭素結合や炭素-酸素結合を主鎖とする高分子の総称で、レジンともいう。

注 4)吸湿性:
自発的に大気中の水分を吸収する現象のこと。水となじみやすい、親水基やイオン基を含む化合物は吸湿性を示すことが多い。液状になるまで吸湿する性質を潮解性といい、身近な物質として砂糖や塩が挙げられる。

注 5)ケイ酸塩鉱物:
二酸化ケイ素(SiO2)と金属酸化物の塩からなる鉱物の総称で、シランカップリング剤製造の原料になる。地上に豊富に存在する。

注 6)SDGs:
国連総会で採択された 17 個の持続可能な開発目標の略称。

注 7)ナノ:
ミリやキロ、メガのような、接頭辞の一つ。1 ナノメートルは 10-9 メートルに相当する。ナノメートルサイズで繰り返される規則的な構造をナノ周期構造という。

注 8)シランカップリング剤:
ケイ素(Si)に一つ以上のアルコキシ基あるいはハロゲンが付いた化合物の総称。シリカ粒子の合成原料に用いられる他、表面改質剤やバインダーなどの用途でも用いられる。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports(2021 年 9 月 3 日付けの電子版)
論文タイトル:Simple Linear Ionic Polysiloxane Showing Unexpected Nanostructure and Mechanical Properties
著者:原 光生(名大院工・助教)、飯島 雄太(名大院工修了生)、永野 修作(立教大理・教授)、関 隆広(名大院工・教授)
DOI: 10.1038/s41598-021-97204-8
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-021-97204-8

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 関 隆広 教授

http://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/polymer3/index-j.html