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数物系科学

2021.09.28

体積1ccで100Aの電流を生み出す「熱電半金属」を発見! ~コンパクトで強力な電流源開発の可能性~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の中埜 彰俊 助教、寺崎 一郎 教授らの研究グループは、明治大学大学院理工学研究科の安井 幸夫 教授との共同研究で、単結晶注1)の遷移金属カルコゲナイド注2)Ta2PdSe6が低温で温度差を巨大な電流に変換可能な「熱電半金属」であることを新たに発見しました。
物質の両端に温度差を付けると、ゼーベック効果注3)によって温度差に比例する電圧が発生することが知られています。物質に電圧が発生すると抵抗値に応じた電流が流れるため、熱エネルギーを電気エネルギーに変換(熱電変換注4))することができます。それゆえ、持続可能社会の実現に向け、熱電変換効率の高い物質の探索が行われています。
今回発見したTa2PdSe6は、氷点下260℃において単体金属注5)に匹敵するような高い電気伝導度と、単体金属の数十倍のゼーベック係数を示す半金属注6)です。これらの物性値から算出される体積1cc、温度差1℃あたりの電流は100Aとなります。この電流値は家庭用定格値の数倍であり、これほどまで電流生成能力の高い物質の前例はありません。
この性質を利用することで、小さな空間において物質にわずかに温度差をつけるだけで大電流を供給することが可能となります。例えば超伝導コイルと組み合わせることで、従来は大きな電流源が不可欠だった超伝導磁石注7)が小型化でき、医療や工学、基礎科学などの幅広い分野での技術革新につながることが期待されます。
本研究成果は、2021年9月15日付で国際学術雑誌「Journal of Physics: Energy」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援のもとで行われました。

 

【ポイント】

・氷点下260℃で、単純金属並みの電気抵抗率と単純金属の数十倍のゼーベック効果を示す「熱電半金属」を発見した。
・ 単結晶Ta2PdSe6の物性値から算出される電流生成能力は体積1cc、温度差1℃あたり100Aとなり、既存のどの熱電物質も凌駕する。
・今回発見した「熱電半金属」の応用により、コンパクトで強力な電流源を開発することが可能となるため、今後超伝導磁石等の大電流を必要とする技術に革新的な影響を与えることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)単結晶:
一つの結晶の中で単位胞の向きが揃っているものを指す。単位胞は固体内の原子の周期配列の最小単位である。軸の方向が揃っているため異方性を含めた精密物性測定が可能。

注2)遷移金属カルコゲナイド:
周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移金属と、第16族の硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)等のカルコゲン間の化合物の総称。

注3)ゼーベック効果:
1821年にエストニアの物理学者トーマス・ゼーベックによって発見された現象。物質についた温度差ΔTを物質固有のゼーベック係数Sを用いて、ゼーベック効果によって発生する電圧はV = -SΔTと書かれる。この効果は、まだ質の良い化学電池が発明されていなかった時代にオームの法則を検証する際にも利用された。発見から今年でちょうど200周年。

注4)熱電変換:
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に直接変換すること。ゼーベック効果では工場などで排出される高温排熱を再利用して発電することができる。逆に、電気エネルギーを熱エネルギーに直接変換することもできる(ペルチェ効果)。こちらはワインクーラーなどの冷却用途に応用されている。

注5)単体金属:
単一元素から構成される金属。銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)など。室温において典型的に10-6 Ωcmオーダーの電気抵抗率と1~10 μV/K程度のゼーベック係数を示す。

注6)半金属:
通常の金属では、電荷を運ぶ担い手(キャリア)が電子か正孔のいずれか一種類である。電子であれば負の電荷を運び、正孔であれば正の電荷を運ぶ。半金属では、電子と正孔の両方が電荷を運ぶ。そのため、通常の金属とは異なる電気伝導性や熱電特性を示すことがある。

注7)超伝導磁石
超伝導体が抵抗ゼロになることを利用して、超伝導コイルに大電流を流すことで大きな磁場を発生させる装置。MRIやリニアモーターカーなどに技術応用されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Physics: Energy
論文タイトル:Giant Peltier conductivity in an uncompensated semimetal Ta2PdSe6
著者:A. Nakano(中埜彰俊*), A. Yamakage(山影相*), U. Maruoka, H. Taniguchi(谷口博基*), Y. Yasui, I. Terasaki(寺崎一郎*)
*名古屋大学        
DOI:10.1088/2515-7655/ac2357
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2515-7655/ac2357

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 中埜 彰俊 助教

http://vlab-nu.jp/