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国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院 救急科の春日井大介病院助教、後藤縁病院講師、同大大学院医学系研究科 循環器内科学の平岩宏章病院助教、室原豊明教授、救急・集中治療医学の松田直之教授、生物統計学の松井茂之教授らの研究グループは、敗血症性ショック※1 における右心機能障害は血行動態を反映し短期予後に影響すること、また予後予測において、心エコー検査※2(以下心エコー)による右心機能※3 の視覚的評価でも十分有用であることを明らかにしました。
敗血症性ショック患者はしばしば敗血症性心筋症※4 による心機能低下を生じることが知られており、死亡率増加に関連することが報告されています。敗血症性心筋症は、一般的に左心機能※3 低下で定義されますが、近年、右心機能障害が敗血症や敗血症性ショック患者の予後に及ぼす影響が注目されています。しかし、敗血症性ショックの病態における右心機能障害の影響や臨床的意義は明らかではありませんでした。
本研究では、米国の集中治療室(ICU)で治療を受けた 4 万名以上の患者の大規模データベース(MIMIC-III)から、心エコーを受けた敗血症性ショック患者を抽出し、後ろ向きに解析しました。その結果、右心機能障害を合併していた患者では心原性ショック※5 を示す血行動態パラメータの変化を認めました。一方、右心と左心機能の関係、および右室と左室サイズの関係を調べると、右心機能障害に伴う右室の拡大と相対的な左室の縮小傾向を認めました。さらに、右心機能障害は左室収縮能とは独立して、血中乳酸値の上昇、院内死亡の増加、致死性不整脈の発症と関連していました。
本研究では、心エコーを用いた視覚的な右心機能評価でも、敗血症性ショック患者の血行動態を十分把握できる可能性を明らかにし、さらには短期予後を予測するのに有用であることを示しました。以上の知見から、簡便で迅速な心エコーによる視覚的右心機能評価は、敗血症性ショック患者に合併した心原性ショックの病態把握や治療法決定に有効であり、今後の診療で応用されることが期待されます。
本研究結果は、国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました(2021 年9 月22 日付の電子版、筆頭著者:平岩宏章、春日井大介)。

 

【ポイント】

○本研究では、大規模データベースを使用して、敗血症性ショック患者における右心機能障害の病態や予後への影響を後ろ向きに検討しました。
○右心機能障害による心原性ショックを示す血行動態パラメータの変化を認めました。
○右心機能障害は左室収縮能とは独立して、循環不全の指標である血中乳酸値の上昇、院内死亡の増加、致死性不整脈の発症と関連していました。
○簡便で非侵襲的な心エコー検査を使用した視覚的な右心機能評価は、敗血症性ショック患者の血行動態の把握や治療法の決定に十分有用であると考えられ、今後の診療で応用されることが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 敗血症・敗血症性ショック
敗血症とは細菌やウイルスなどの感染により生体が制御不能な状態となり、致死的な臓器不全を発症している状態です。敗血症性ショックとは敗血症のうち、適切な輸液負荷などの治療を行っても低血圧が持続する状態のことです。

※2 心エコー検査
心臓超音波検査とも言います。心臓に向けて超音波を当て、そこからの反射信号を画像化し、その画像を用いて心臓の動きや構造、心臓内の血流を観察する検査です。

※3 左心機能・右心機能
心臓は全身に血液を運ぶポンプの働きをしています。 心臓は大きく分けて左心(系)と右心(系)に分かれます。 左心(系)は肺で酸素を受け取った血液を全身に送る働きをしています。 右心(系)は全身から戻ってきた血液を肺に送ります。左心機能は左室の働きや能力を指し、左室収縮能はその指標の一つです。一方、右心機能とは右心(系)、特に右室の働きや能力を指します。左心(系)と右心(系)は密接に関係しており、全身の循環を維持しています。

※4 敗血症性心筋症
敗血症や敗血症性ショックにおいて、心機能の低下を認めることがあります。心機能低下は一時的なものである場合が多く、そのメカニズムは、病原体や全身の炎症による影響などが考えられていますが、詳細についてはまだよく分かっていません。

※5 心原性ショック
心臓に何らかの異常が生じたため心機能が低下し、全身の臓器や組織に血液や酸素を送ることができなくなり、循環が維持できなくなった状態のことです。左心機能と右心機能の両方、もしくはいずれかが悪化した際に生じる可能性があります。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Clinical impact of visually assessed right ventricular dysfunction in patients with septic shock
著者:Hiroaki Hiraiwa1,2+, Daisuke Kasugai2*+, Masayuki Ozaki2, Yukari Goto2, Naruhiro Jingushi2, Michiko Higashi2, Kazuki Nishida3, Toru Kondo1, Kenji Furusawa1, Ryota Morimoto1, Takahiro Okumura1, Naoyuki Matsuda2, Shigeyuki Matsui3, Toyoaki Murohara1
1Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Department of Emergency and Critical Care Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3Department of Biostatistics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
DOI:10.1038/s41598-021-98397-8

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_Rep_210922en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 平岩 宏章 病院助教

http://www.med-nagoya-junnai.jp/
https://emergcrit-nu.amebaownd.com/