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工学

2021.09.17

プラズマによる革新的ながん治療へ ~プラズマ照射液中の抗ガン物質の同定~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学低温プラズマ科学研究センターの堀 勝 センター長、田中 宏昌 教授らの研究グループは、名古屋大学医学部附属病院の水野 正明 教授、同大大学院医学系研究科の豊國 伸哉 教授、梶山 広明 教授、同大大学院生命農学研究科の柴田 貴広 教授との共同研究で、プラズマ活性乳酸リンゲル液(Plasma-activated Ringer’s lactate solution, PAL)中の抗ガン物質をいくつか同定しました。
本研究では、プラズマ活性乳酸リンゲル液中の成分をいくつか同定し、それぞれの物質のがん細胞殺傷効果を調べました。その結果、「グリオキシル酸」はがん細胞にも正常細胞に対しても殺傷効果を有するのに対し、「2,3-ジメチル酒石酸」は正常細胞に対してがん細胞に選択的な殺傷効果を示すことが明らかになりました。
このことにより、プラズマ活性溶液注 1)によるがん細胞の選択的殺傷効果の解明に大きく前進し、将来のプラズマがん治療の推進が期待できます。
この研究成果は、2021 年 9 月 16 日 18 時(日本時間)付英国科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。
この研究は、令和元年度から始まった文部科学省科研費特別推進研究『プラズマ誘起生体活性物質による超バイオ機能の展開』などの支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・本学が世界に先駆けて独自に開発したプラズマ活性乳酸リンゲル液(PAL)の成分について、核磁気共鳴法(NMR)注 2)やエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)注 3)によりいくつか同定した。
・同定された成分について、がん細胞への細胞殺傷効果を調べたところ、「グリオキシル酸」はがん細胞にも正常細胞に対しても殺傷効果を有するのに対し、「2,3-ジメチル酒石酸」は正常細胞に対してがん細胞に選択的な殺傷効果を示すことが明らかになった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注 1)プラズマ活性溶液:
プラズマを照射した溶液のことで培養液、点滴などをプラズマ照射すると抗腫瘍効果など、細胞・組織に多様な生理学的応答を示すことがこれまでの研究で分かってきた。
注 2)核磁気共鳴法(NMR):
核磁気共鳴とは、外部静磁場に置かれた原子核が固有の周波数の電磁場と相互作用する現象であり、核磁気共鳴法とは核磁気共鳴を物質の分析、同定の手段として用いる方法のことである。
注 3)エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS):
興味のある検体を含む液体をエレクトロスプレーによって微細なエアロゾルへと分散し、イオン化した後に質量分析を行う方法のことである。


【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Low temperature plasma irradiation products of sodium lactate solution that induce cell death on U251SP glioblastoma cells were identified.
著者:Hiromasa Tanaka, Yugo Hosoi, Kenji Ishikawa, Jun Yoshitake, Takahiro Shibata, Koji Uchida, Hiroshi Hashizume, Masaaki Mizuno, Yasumasa Okazaki, Shinya Toyokuni, Kae Nakamura, Hiroaki Kajiyama, Fumitaka Kikkawa, and Masaru
Hori
DOI: 10.1038/s41598-021-98020-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-98020-w

 

【研究代表者】

低温プラズマ科学研究センター 堀 勝 教授

https://www.plasma.nagoya-u.ac.jp/