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数物系科学

2021.09.17

歴史文献から明かされるダルトン極小期の太陽活動 ~太陽活動低調時の物理的な活動メカニズムの究明の手がかりに~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学高等研究院・宇宙地球環境研究所の早川 尚志 特任助教、今田 晋亮 講師(研究当時:宇宙地球環境研究所、現:東京大学大学院理学系研究科教授)らの研究グループは、国立天文台、オーストリア科学アカデミーなどとの国際共同研究により、ウィルテン修道院(オーストリア)の太陽黒点注1)観測記録を検討し、19 世紀初頭の「ダルトン極小期」注2)の太陽黒点が南北半球に現れ、17 世紀後半〜18 世紀初頭の「マウンダー極小期」注3)の太陽黒点と、大きく異なる挙動を示していたことを新たに発見しました。
「マウンダー極小期」の黒点はほとんどが南半球に集中し、太陽コロナ注4)のストリーマー注5)もほとんど見えなくなっていたと考えられる一方、「ダルトン極小期」の太陽黒点やコロナ構造の様子についてはこれまでよく分かっていませんでした。

本研究は、現代観測よりも太陽活動が低下した際、太陽黒点が実際にどのような挙動を示すかが実際の観測記録から実証されたとともに、太陽活動が例外的に低調になった時期の物理的な活動メカニズムの究明の足がかりになると期待されます。
本研究成果は、2021 年9 月16 日付で米国科学雑誌「The Astrophysical Journal」オンライン版に掲載されました。
本研究は、2021 年度から始まった科学研究費助成事業・若手研究(21K13957)と基盤研究(S)(20H05643)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・ ウィルテン修道院(オーストリア)所蔵のプラントナー注6)の太陽黒点観測記録(1804-1844)を分析。
・ ダルトン極小期の黒点分布が南北半球に広がっており、黒点分布が南半球に集中していたマウンダー極小期と大きく異なっていたことが判明。
・ ダルトン極小期に太陽コロナのストリーマー構造が残存していたのに対し、マウンダー極小期にコロナのストリーマー構造が消失していたとされる対照性と符合。
・ 本研究は、太陽活動が例外的に低調になった時期の物理的なメカニズムの究明の足がかりになると期待。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)太陽黒点:
太陽表面に数千ガウス程度の磁場が表出し、周囲に比べて比較的温度が低くなる関係で暗く見える領域。磁場を共有する黒点の集団は黒点群として括られる。黒点群と個別黒点の出現個数は太陽の磁場活動の指標として用いられる。

注2)ダルトン極小期:
1790 年代〜1820 年代にかけて太陽活動が極めて低調だったとされる時期。太陽活動の程度は恐らく「マウンダー極小期」よりも活発だったと考えられるが、既存の研究では太陽黒点群数の復元が一致せず、太陽黒点の分布も様子が分かっていなかった。


注3)マウンダー極小期:
1645〜1715 年にかけての太陽活動が極めて低調だったとされる時期。この時期にはほとんど黒点が現れなくなり、現れた黒点も太陽の南半球に集中したと考えられるが、実際の太陽活動の程度については依然複数の復元があって解決を見ていない。同時期の気候寒冷化との関係も議論の対象になっている。

注4)太陽コロナ:
太陽外層を取り囲む 100 万度以上の高温外層気体。その温度のためコロナ中の原子の多くは電離してプラズマ状態になっている。皆既日食の際、地上から肉眼でも観測されるものには、太陽光がコロナ中の電子に当たって散乱する部分(K-corona)と周辺のダストに当たって散乱する部分(F-corona)などがあり、前者は太陽外縁の磁力線伝いにストリーマーとして広がりやすい。

注5)ストリーマー:
太陽コロナの内、太陽表面から伸びた磁力線の閉じられたループ構造。この中に電子がトラップされ、その分輝度が高くなる。皆既日食時に視認されることが多く、その拡散太陽活動周期(〜11 年)のフェーズに応じてその広がり方が変化する。

 

注6)プラントナー:
Stephan Prantner(1782-1873)。現オーストリアのティロル地方に生まれ、インスブルックやウィルテンの周辺でプレモントレ修道会士として活躍。数学や自然科学を学び、後年ウィルテン修道院にて数学や物理学を教えた。その生涯の間、太陽観測や気象観測など、多くの観測記録を残している。

 

【論文情報】

雑誌名:The Astrophysical Journal
論文タイトル:Stephan Prantner’s Sunspot Observations during the Dalton Minimum
著者:早川尚志*, 采女昇真*, Bruno P. Besser (オーストリア科学アカデミー), 伊集朝
哉(国立天文台), 今田晋亮*(*名古屋大学)
DOI:10.3847/1538-4357/abee1b
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/abee1b

 

【研究代表者】

https://researchmap.jp/hisashi.hayakawa