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生物学

2021.10.01

胎生魚類の卵巣は抗菌ペプチドを産生している ~卵巣内での雑菌の繁殖を防ぎ、卵や胎仔を保護する役割か~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の飯田 敦夫 助教、仲井 理佐子 博士前期課程学生、吉田 純生 博士後期課程学生、本道 栄一 教授らの研究グループは、城西大学との共同研究で、グーデア科胎生魚の卵巣が抗菌ペプチド遺伝子注1)を発現していることを発見しました。
グーデア科胎生魚Xenotoca eiseniの胎仔は、1ヶ月強の期間を親の卵巣内で栄養供給を受けて成長します。その間、母仔間での栄養授受や老廃物の代謝など、卵生魚には無い様々な機構が胎生魚には必要となります。我々のグループはこれまで、栄養授受機構に関する発見を報告してきました。
本研究では新たに抗菌ペプチド遺伝子に注目し、卵巣で妊娠する胎生魚類が、卵や胎仔を雑菌から保護する機構の一端が見えてきました。一連の研究は、魚類で妊娠を成立させている胎生魚特有の生理機構の理解に貢献します。
本研究成果は、令和3年9月25日付オランダの出版社エルゼビアが発行する専門学術誌「Fish and Shellfish Immunology」の電子版に掲載されました。
この研究は、一般財団法人 伊藤忠兵衛基金、一般財団法人中辻創智社、公益財団法人 大幸財団からの支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・胎生魚が卵巣内で胎仔を育てるにあたり、雑菌の侵入や繁殖を防ぐ必要がある。
・卵巣のRNA-Seq解析注2)により、抗菌ペプチドをコードするleap遺伝子の一つが高く発現することが分かった。
・大腸菌への遺伝子形質転換を用いた簡易的な解析により、leap1a遺伝子が強い抗菌活性を持つことが明らかになった。
・グーデア科胎生魚は抗菌ペプチドLEAP1a因子を使うことで、卵巣内の環境悪化を防ぎ、長期間の妊娠を可能にしていると考えた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)抗菌ペプチド遺伝子:
抗菌ペプチドとは、アミノ酸が約十~数十個連なったポリペプチドのうち菌を破壊、あるいは増殖を抑制する活性を持つ因子の総称である。ヒトを含めた哺乳類や植物、昆虫などあらゆる多細胞生物で見つかっている。

注2)RNA-Seq解析:
細胞内に存在するRNAの塩基配列を網羅的に解読し、その種類と数を整理することで、特定の遺伝子の発現量を推定する手法。

 

【論文情報】

雑誌名:Fish and Shellfish Immunology
論文タイトル:Expression and antimicrobial activity of liver-expressed antimicrobial peptides in the ovaries of the viviparous teleost Xenotoca eiseni.
著者:Atsuo Iida, Risako Nakai, Junki Yoshida, Kaori Sano, Eiichi Hondo. 
DOI:10.1016/j.fsi.2021.09.029
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1050464821002953?via%3Dihub

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 飯田 敦夫 助教
https://sites.google.com/view/animal-morphology