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医歯薬学

2021.11.04

フェロトーシス依存的細胞外小胞(FedEVs)によるアスベスト発がん機構の解明 ~マクロファージの細胞死に伴って分泌されるFedEVsはフェリチン供与を介し中皮細胞の発がんに寄与する~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科生体反応病理学の伊藤 文哉(いとう ふみや)研究員、梁取 いずみ(やなとり いずみ)助教、豊國 伸哉(とよくに しんや)教授の研究グループは同大循環器内科学の加藤勝洋(かとう かつひろ)病院助教と室原 豊明(むろはら とよあき)教授による研究グループとの共同研究により、細胞外小胞※1(EV:エクソソーム、マイクロべジクルなど)が発がん要因となる鉄を輸送しアスベスト発がんの一端を担うことを明らかにしました。私たちは昨年、アスベスト投与生体環境についての詳細な解析により、マクロファージの鉄依存的細胞死(フェロトーシス)が発がん環境として発生しているという報告をしました。しかし、このマクロファージの細胞死からどのような機構で中皮細胞に発がん因子が届けられるのかについては疑問が残っていました。本研究では、発がん因子を届ける生理活性の高い物質として、細胞外小胞がその役割を担っているという仮説のもとに、マクロファージ由来のフェロトーシス依存性 EV(FedEV※2)をタンパク質の網羅的解析などにより詳細に解析しました。すると、FedEV にはフェリチンや触媒性 Fe(II)※3 が多量に含まれていることが判明しました。また、FedEV を取り込んだ中皮細胞の網羅的遺伝子発現解析により、細胞内で鉄が過剰となっていること、細胞分裂期に取り込まれていることが分かり、DNA 合成の活発な時期にEVが取り込まれ鉄依存的酸化傷害が生じていることを示しました。このFedEV を取り込んだ中皮細胞から腫瘍が発生するものと考えられます。今後、FedEV の取り込みをコントロールできるようになれば、中皮細胞への鉄の過剰蓄積を防ぎ、すでにアスベスト※4 に曝露した方への発がん予防となることが期待できます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業CREST「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」研究領域(研究総括:馬場嘉信 名古屋大学教授)における研究課題名「細胞外微粒子への生体応答と発がん・動脈硬化症との関連の解析」(研究代表者:豊國伸哉 名古屋大学教授)(JPMJCR19H4)の支援を受けたものです。 本研究結果は、科学誌「Redox Biology」(電子版)に2021 年10 月21 日に掲載されました。

 

【ポイント】

● アスベストによるマクロファージの鉄依存的細胞死(フェロトーシス)は細胞外小胞を分泌する。
● 細胞外小胞はアスベスト由来の発がん因子を中皮細胞に伝達する。
● 細胞外小胞に含まれる主な発がんに寄与する主な分子はフェリチンである。
● 細胞外小胞を取り込んだ中皮細胞は細胞分裂期においてDNA の酸化傷害を受ける。
● 以上より、細胞外小胞が発がんという新たな病態へ関与することを示した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 細胞外小胞:細胞のエンドソームから分泌される脂質二重膜構造をもつ小胞。内部にDNA, RNA、蛋白質を含有し、サイズの大きさ、産生機構の違いからエクソソーム、マイクロべジクル、アポトーシス小体に分類される。
※2 FedEV:Ferroptosis-dependent Extracellular Vesicle。鉄依存的細胞死により放出される細胞外小胞。
※3 触媒性Fe(II):フェントン反応(Fe(II)+H2O2 →Fe(III) + OH- + ・OH)は生体内で最も反応性の高い化学種である・OH (ヒドロキシルラジカル)を生じる反応であり、Fe(II)はこの反応を触媒する。
※4 アスベスト:天然の繊維状鉱物。耐久性、耐熱性、電気絶縁性に優れ、安価であったため、前世紀においては全世界で多量に使用された。建築材料、電気製品、衣料などに用いられていた。
長期間の吸入により、肺がん、悪性中皮腫、石綿肺などの発生原因となる。発展途上国では今でも多量に使用されている。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Redox Biology
論文タイトル:Ferroptosis-dependent extracellular vesicles from macrophage contribute to asbestos-induced mesothelial carcinogenesis through loading ferritin
著者:Fumiya Ito1, Katsuhiro Kato2, Izumi Yanatori1, Toyoaki Murohara2, and Shinya Toyokuni*1,3
所属:1Department of Pathology and Biological Responses, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan; 2 Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65; 3Center for Low-temperature Plasma Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
DOI:https://doi.org/10.1016/j.redox.2021.102174

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Red_Bio_211021en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 豊國 伸哉 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/pathology/pathology1/