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数物系科学

2021.11.17

世界初!統一シミュレーションにより、木星や土星などの「巨大ガス惑星」の形成過程を解明

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の小林 浩 助教は、国立大学法人東北大学大学院理学研究科の田中 秀和 教授との共同研究で、世界で初めて、0.1ミクロンサイズのダスト注1)から1万kmサイズの惑星までの成長過程を、惑星形成の母体となる原始惑星系円盤注2)全体(地球から太陽の距離の100倍程度の大きさ)で取り扱う、精密かつ統一的な計算機シミュレーションにより解明しました。この統一シミュレーションにより、長年の謎であった、太陽系の木星や土星のような「巨大ガス惑星注3)」の形成の道筋を新たに発見しました。
惑星系の中で最も重い巨大ガス惑星は、他の惑星の環境にも影響を与えます。巨大ガス惑星形成の道筋が明らかになったことで、地球の環境形成にも示唆が与えられるとともに、太陽系外惑星注4)系において、生命を育む惑星(ハビタブル惑星)の形成についても議論ができるようになりました。
本研究は、太陽系の惑星だけでなく、系外惑星も含めたハビタブル惑星起源の全容解明につながることが期待されます。
本研究成果は、2021年11月17日午前1時(日本時間)付アメリカ天文学会雑誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。
本研究は、平成30年度から始まった新学術領域「星・惑星形成」の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・惑星の形成現場である原始惑星系円盤の全体での、0.1ミクロンサイズのダストから1万kmサイズに及ぶ惑星までの、天体の衝突成長過程を追う統一的な計算機シミュレーションを世界で初めて行った。
・木星のような巨大ガス惑星は、他の恒星の周りにも普遍的に存在することが分かってきたが、これらの形成をうまく説明できる理論モデルはこれまでなかった。最も大きな問題は、巨大ガス惑星がガス集積を起こすことができる、地球質量の10倍程度の巨大な固体核注5)の形成に時間がかかりすぎ、固体核は十分に大きくなる前に中心星に落下してしまうことであった。本研究の統一的なシミュレーションにより、指摘されてきた困難が全て解決された。
・本研究により、形成後の木星が周りに残る氷微惑星注6)を散乱し、どれほどの氷微惑星が地球に持ち込まれて「海」になるかという議論が可能になった。そして、太陽系以外の惑星系でも、巨大ガス惑星形成により、生命を育む「ハビタブル惑星」の出現に及ぼす影響について示唆が与えられた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ダスト:
星が形成される時、原始惑星系円盤に持ち込まれる。最初は0.1ミクロン程度の大きさであり、付着成長をくり返し「ぶどうの房」のような形状で大きくなる。

 

注2)原始惑星系円盤:
星形成過程で星の周りに作られる円盤。大きさは地球と太陽の距離(天文単位)の100倍ほど。この円盤の中で惑星は作られる。

 

注3)巨大ガス惑星:
木星や土星のような惑星。主に水素やヘリウムのガスで構成されるが、まず地球の10倍ほどの重い固体核が形成され、それがガスを大量に集積して形成される。

 

注4)太陽系外惑星(もしくは、系外惑星):
太陽以外の恒星の周りを公転する惑星のことである。すでに5000個以上の系外惑星が発見されている。

 

注5)固体核:
木星や土星のような巨大ガス惑星の固体核。この固体核が地球質量の10倍程に大きくなるとガス集積が急速に起こり、巨大ガス惑星になる。一方、原始惑星系円盤のガスが晴れ上がるとガスを集積することができず、この固体核の生き残りは天王星や海王星のような惑星になると考えられている。
 

注6)微惑星:
惑星を作った材料。現在の小惑星や彗星のような大きさの天体。

 

【論文情報】

雑誌名:The Astrophysical Journal
論文タイトル:Rapid formation of Gas Giant Planets via Collisional Coagulation from?Dust Grains to Planetary Cores
著者:小林浩(名古屋大学)、田中秀和(東北大学)
DOI:10.3847/1538-4357/ac289c
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac289c

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 小林 浩 助教
https://www.astro-th.phys.nagoya-u.ac.jp/~hkobayas/hp_main/index_j.html